研究課題
半月体は腎小体のボウマン嚢直下に生じる細胞増殖所見であり、臨床的には、糸球体腎炎における予後不良因子である。これまでの研究でマウス半月体形成性腎炎モデルであるBSA腎炎における半月体形成期にLine-1レトロトランスポゾン(L1)が強く発現し、L1の逆転写酵素活性を薬物(エファビレンツ)で抑制すると、半月体形成が抑えられることが見出された。本研究は半月体形成性腎炎に対するエファビレンツの臨床応用を目指した基礎的な検討を目的とする。半月体形成性にL1が関与するのであれば、人為的にL1を発現させる系であるトランスジェニックマウスではより簡便に半月体形成性腎炎を生じさせることが可能となると考えられ、医薬基盤研究所よりL1トランスジェニックマウスを導入する予定であった。BSA腎炎モデルには表現型にマウスの系統が影響することを配慮し、L1トランスジェニックマウスのバックグラウンドであるBDF1マウスを用いたBSA腎炎の解析を行った。これまで用いてきたB10-BRマウスでは、プロトコールを完遂したマウスはほぼ100%の腎小体に半月体が形成されたが、BDF1マウスでは、プロトコールを完遂したマウスの腎内に半月体の形成はみられたが、観察した腎小体のなかで半月体がみられたのは、5%未満であった。また、BDF1マウスのプロトコール終了までの生存率は40%で、およそ10~15%であるB10-BRマウスに比し高く、表現型としては軽症であった。以上より、バックグラウンドのBDF1マウスとL1トランスジェニックマウスの間で、表現型に差が生じる可能性が高いと考えられる。
3: やや遅れている
平成26年度は、①L1トランスジェニックマウス導入前に同マウスのバックグラウンドの影響を評価する予備実験を行う。②B10-BRマウスを用いた既存のBSA腎炎モデルに対するエファビレンツの用量依存性を評価する。③これまでに判明した半月体形成期に発現が増強するc-mycやMAPキナーゼ遺伝子のプロモーター領域の解析を予定していた。①は完遂できたが、②・③が行なえなかった。理由として、トランスジェニックマウス導入に関わる書類審査に時間がかかったこと、動物実験施設の空きを待っていたことがあげられる。また、年度の半ば過ぎで、研究代表者の異動が決定したため、異動日までに完遂できない実験を平成27年度へ持ち越したことも影響している。
研究代償者は、平成27年4月1日付で、順天堂大学医学部附属静岡病院に異動となったが、同院には災害医学研究所という実験施設が併設されており、動物実験も可能である。既に、マウス導入について準備を進めており、同施設での書類審査通過後に、前年に持ち越した実験を行う予定である。これまでの研究で得られたB10-BRマウス腎組織などのサンプルは、異動先に移転が行なえた。トランスジェニックマウスの導入には待機時間が多いと考えられるため、この時間を活かして、研究の遅れを取り戻したいと考えている。
平成26年度の研究で、Line-1トランスジェニックマウスを導入できなかったことおよび、研究代表者の異動が年度半ばで決定し、平成27年度に継続する実験が行えなくなり、当初予定していた実験を控えたため、26年度に支出する予定であった額が消費できず、剰余金が生じた。
平成27年度に異動先の順天堂大学静岡病院災害医学研究所において、26年度に行えなかった研究(B10-BRマウスのゲノム解析)およびLine-1トランスジェニックを用いたBSA腎炎の研究を行い、差額が生じないよう計画的に研究費を用いるように心がける。
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