研究課題/領域番号 |
26461238
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
清水 芳男 順天堂大学, 医学部, 先任准教授 (50359577)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 半月体形成性腎炎 / レトロトランスポゾン |
研究実績の概要 |
レトロトランスポゾンは自身の複製をゲノム上の異なる領域に挿入する(レトロトランスポジション)性質をもつ配列である。これまで我々が行なった研究にて糸球体腎炎の病理学的予後不良因子である半月体形成にゲノム上に多数存在するLine-1レトロトランスポゾン(L1)が関与することが示唆された。今年度の研究では、ヒトL1を強制発現し、レトロトランスポジションが生じた組織上の部位をGFPにて可視化するhLine-1・EGFPトランスジェニックマウス(hL1・EGFP Tgマウス)に対し、半月体形成性腎炎モデル(BSA腎炎)を誘導し、腎組織形態を検討した。 国立研究開発法人・医薬基盤・健康・栄養研究所から、2系統(#4, #67)のhL1・EGFP Tgマウスの供与を得た。我々の研究室内で繁殖を行ない、#4 (オスn=14、メスn=11)、#67(オスn=3、メスn=6)に対し、BSA腎炎)を誘導した。PAS染色を行った腎組織を評価した。半月体形成率は、各マウス50糸球体をランダムに選び、(半月体がみられた糸球体数/50)×100(%)としてあらわした。 #4オスの50%(n=7)、#4メスの54.5% (n=6)および#67 オスの100%(n=3)、#67メス16.7% (n=1)がプロトコルを完遂した。半月体形成率は、#4 オス、#4メス、#67 オス、#67メスの順にそれぞれ、37.7±33.3%、10.3±10.6%、51.3±44.6%、12%(平均±標準偏差)であった。同系統のマウス間においても、表現型に大きなばらつきがみとめられた。 今回の検討で、表現型がマウス系統に依存するとされるBSA腎炎でBDF1が遺伝的背景であるhL1・EGFP Tgマウスにて、半月体が形成され、系統に左右されず研究が継続可能と考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成27年度に研究施設の静岡災害医学研究所が静岡災害医学研究センターに組織改編となり、それに続いて施設工事がほぼ1年間行われ、動物実験が行なえなかった。平成28年に新設された動物実験施設において、マウスの飼育・繁殖が可能となり、本研究に使用するhL1・EGFP Tgマウスの供与を受けることができた。マウスの繁殖については、経験者が在籍していたため、非常に順調に行えた。 半月体形成性腎炎モデルのBSA腎炎における半月体は病理学的に明確に判別が可能であり、糸球体が小さいマウスでは、同様の表現型を呈するモデルは存在しないといえる。一方、マウス系統による表現型の差が激しく、同じプロトコルによっても半月体が全く生じないものも存在する。hL1・EGFP Tgマウスの遺伝的バックグラウンドは、BDF1であり、このマウスを使用した予備実験では、半月体形成率が非常に低値であった。hL1・EGFP Tgマウスにて、しっかりした半月体形成が確認されたことで、当初の目的である逆転写酵素阻害薬・エファビレンツの効果に関する研究に着手できるようになった(現在個体数を増やしている)。 マウスの飼育施設だけでなく、解析に用いる蛍光顕微鏡・クライオスタットなどの機器も整備されており、研究機関も1年延長を許可いただいたことで、これまで生じた遅れを取り戻せると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度の研究で得られた組織におけるhL1レトロトランスポジションのマーカーEGFPの発現を解析中である。EGFPが組織中で強力に発現している場合は、蛍光顕微鏡で直視されるが、半月体形成腎の観察では、EGFP発現を確認できなかった。同様の先行研究でも、EGFPそのものを検出することは、組織の固定などの影響によって難しく、抗EGFP抗体による蛍光抗体法による検出が行なわれており、現在染色条件の検討を行っている。 hL1・EGFP Tgマウスの繁殖も順調に進んでおり、実験に必要な40頭に到達次第、速やかにエファビレンツ投与の影響を観察する本来の実験を開始する。腎炎誘発抗原であるBSA(ウシアルブミン)免疫に8週間、免疫複合体を血中に誘導するための抗原投与に4週間かかり、開始から臓器採取まで3か月かかる見込みである。エファビレンツは、半月体が形成されるプロトコル最終週に腹腔内投与を行う。これまで採取してきた組織の解析を先行させることで、研究の目的であるエファビレンツ投与下の臓器解析も技術的に確立し、年度の終わりには発表に耐えうる知見が得られると考えられる。 研究期間の1年延長をご許可いただき、改めて感謝いたします。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度の補助金がほぼ1年分残っており、28年度分と合算すると多くの繰り越し分が生じていた。また、研究成果発表にかかる旅費を計上する機会がなかった。毎回、研究計画の終了に近くなると、消耗品費が不足がちになることが多く、既に所有していた試薬を中心に使用し、無駄なものを購入しないよう注意していたことも影響している。 予備実験を主に行っていたため、使用するマウスも比較的少なく、経費もあまり多くかからなかった。以上より、次年度への繰り越し分が生じている。
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次年度使用額の使用計画 |
期間延長をご許可いただいた29年度は、28年度で得られた腎炎モデルマウス組織および尿・血液の解析を行う。並行してエファビレンツ投与下でのBSA腎炎を誘導し、血液・尿・組織の解析を行う。血液・尿は主として既知のバイオマーカーを測定する。研究の成果を中間報告とはなるが、米国腎臓学会で発表する。 上記の研究計画を遂行するため、必要な試薬・物品を購入し、旅費を計上すると、繰り越し分の研究費はすべて費消される予定である。
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