家族性若年性ネフロン癆の責任遺伝子である Inv の変異マウスを用いて、嚢胞腎の進展の分子機構の解析を行ってきた。マウス嚢胞腎あるいはヒト嚢胞腎の尿細管上皮細胞の培養法を検討した結果、嚢胞化が進展した上皮細胞の培養は細胞形態の変化が大きく、また接着性も低いことから嚢胞化進展の機能解析の目的に適する方法を確立することは困難であった。そこで、マウス嚢胞腎の進展前(組織学的には正常に観察される)の上皮細胞の培養を検討し、その培養方法の確立および細胞株の樹立に成功した。培養に適したマトリゲルの選択により、上皮構造(立方上皮であること、繊毛が生えていること、微絨毛が生えていること、水チャンネルなどが発現していることなど)がある程度保たれた近位尿細管上皮細胞株を樹立している。樹立された細胞株の中から三次元培養を行い、嚢胞化することを確認した。このことは尿細管内の原尿の流れを繊毛が感知できないことから嚢胞化が起こるのではなく、繊毛あるいは繊毛因子が細胞増殖などに直接影響していることと推察された。 また、Inv の機能解析を行うために、Invの機能領域(他の因子との結合領域)と考えられる5カ所の部位にそれぞれ点変異を導入したマウスの作製を行った。このマウスの作製はCRISPR/Cas9法により高知大学津田先生のもとで行い、現在その産仔の解析を行っている。 このように、嚢胞腎の進展の分子機構の解析およびそこからの新たな治療法の解析を行うための研究方法や研究試料の準備を整えることができた。この科研費による成果をもとに、新たな嚢胞腎研究の礎を構築することに成功し、今後の解析成果が期待される。
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