研究課題
近年、胎児黒質神経細胞移植を受けたパーキンソン病(PD)患者剖検脳において、胎児由来の神経細胞にαシヌクレイン(αS)陽性のLewy小体様封入体が確認されたという報告に端を発し、凝集タンパクが細胞間を伝播し周辺に病変を拡大させる現象(プリオン仮説)が注目されている。さらにαS以外にもTau、TDP-43、ポリグルタミンなど他の神経変性疾患に関連した凝集性タンパクにおいても、同様の伝播現象が報告されるに至り、プリオン様伝播は変性疾患に共通した病態基盤であるとの考えが浸透しつつある。一方、個々の凝集性タンパクの生化学的特性、タンパクの高次構造、あるいは細胞のストレス状況によっても伝播機構が異なる可能性が指摘されている。故に、それぞれの凝集性タンパク毎に分泌・吸収・分解機構を精緻に解明することが今後の治療応用を考える上で不可避である。申請者らは異常タンパク伝播の背景にある膜輸送・小胞輸送系に早くから着目し、PD 患者脳内に蓄積する凝集化αSの吸収・分泌・分解に関与する小胞輸送経路を詳細に渡り明らかとしてきた。これらの研究をさらに発展させるべく、本研究では、各種神経変性疾患における異常凝集タンパク伝播現象の背景にある分子機構の詳細を明らかとする。具体的には(1) 神経変性疾患関連タンパクの吸収・分泌・分解に関与する小胞輸送系の探索、(2) 異常タンパク伝播現象に着目した神経変性疾患の進行抑制治療の確立 の2課題にターゲットを絞り、培養細胞、コンディショナルノックアウトマウスなどを駆使し、多角的な病態メカニズム解析を進める。これらの取り組みを通じ、小胞輸送異常による異常タンパク蓄積・神経変性誘導の分子メカニズムを明らかとし、異常タンパク伝播阻止に立脚した全く新しい神経変性疾患のdisease-modifying therapyを提案することを目指す。
2: おおむね順調に進展している
本年度は異常凝集蛋白の分解機序および細胞間伝播に関する以下の2つの研究に注力した。第一の課題として、ミスフォールド蛋白の品質管理におけるエンドソーム-リソソーム制御因子ESCRT-0/Hrs分子の機能的役割を検証した。同研究にて、マウスにおける前脳特異的ESCRT-0/Hrs欠損が、αS、TDP-43、ハンチンチンをはじめとするユビキチン陽性蛋白蓄積を伴う海馬神経細胞の変性脱落を生じることを確認した。さらにPC12細胞を用い、Hrsサイレンシングがオートファジー分解を停滞させ、ERストレス誘導下にストレスキナーゼJNKリン酸化を促し、(i) カスパーゼ依存性の古典的apoptosisとともに、(ii) RIPK1依存性のprogrammed necrosis(ネクロトーシス)といった2種類の細胞死を惹起することを確認した。さらにJNK, pan-caspase阻害剤とともにRIPK1阻害剤が、ESCRT障害下の神経細胞死をレスキューすることを見出した(Scientific Reports, provisionally accepted)。もう一つの課題として、aS細胞間伝播のメカニズム解析を進めた。ダイナミンGTPase阻害作用を有する抗うつ薬SSRIセルトラリンが、αS monomerでなくfibrilの細胞内取込みを選択的に抑制することを確認した。これらの知見をさらに発展させるべく、現在aS fibril脳内接種マウスを用いセルトラリンの治療効果検証実験を進めている。また、細胞膜上に発現するdopamine transporter (DAT)がaSモノマーの細胞内取り込みを促進するとともに、DATの内在化を生じ、同分子の機能を減弱させることを見出した。現在、ラット脳初代培養ドパミンニューロンを用いた確認実験を継続中である。
(1) 異常タンパク伝播阻止に立脚したシヌクレイノパチーの新規治療法確立:細胞モデルを用いて、SSRIなどの既存薬におけるαSYNの細胞内への取り込み抑制効果を検討し、候補薬剤種とその有効濃度を推定する。細胞モデルの結果に基づいて選定された候補薬をin vivoモデルにて検討する。具体的には線維化精製マウスαSYNをマウス脳へ超音波印加型convection-enhanced delivery装置を用い、一側の線条体へ局所注入する。接種1ヶ月後に対側大脳皮質におけるリン酸化αSYN病理に基づき、SSRIによる伝播阻害効果について定量評価を行う。(2) 細胞外αシヌクレイン取込みにおけるドパミントランスポーターの関与:DATによる細胞外aSモノマー取込み促進現象について、ラット脳初代培養ドパミンニューロンを用いた確認実験を実施する予定である。また、DAT内在化の分子メカニズムに関して、DATのK63鎖ポリユビキチン化を誘導するユビキチンE3リガーゼNedd4-2の関与や、PKCbetaの関与に着目して細胞生物学的な検討を予定している。(3) エンドソーム関連分子DNAJC13/RME-8変異による家族性パーキンソン病発症機構の解明:これまでの研究によりVPS35、DNAJC13、LRRK2、Rab7L1など細胞内小胞輸送に関連する複数の家族性PD 遺伝子がcommon cellular pathwayを形成し、オートファジー・リソソーム機能を制御している可能性が指摘されている。そこで本研究では家族性PD関連遺伝子DNAJC13機能異常によるαSタンパク分解・分泌プロセスおよび細胞間伝播へ影響について、siRNA・変異体導入神経細胞、およびショウジョウバエモデルを用いin vitro, in vivo両面からの解析を実施する。
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