研究課題/領域番号 |
26461268
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
佐橋 健太郎 名古屋大学, 医学部附属病院, 医員 (90710103)
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研究分担者 |
祖父江 元 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任教授 (20148315)
勝野 雅央 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (50402566)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 運動ニューロン疾患 / アンチセンス核酸 / 病態解明 |
研究実績の概要 |
球脊髄性筋萎縮症 (SBMA) はX染色体連鎖性の遺伝形式をとり、アンドロゲン受容体(AR)遺伝子の第1エキソンにあるCAG繰り返し配列(リピート)の異常延長により発症する神経筋疾患である。患者には下位運動ニューロンおよび骨格筋変性に伴う進行性の筋力低下、筋萎縮がみられ、未だ根治療法はない。一方その組織特異的病態形成、とくに運動ニューロンと骨格筋の相対的病態は依然明らかになっていない。近年主にマウスモデルを用いた研究から、変異ARタンパク質の毒性による、骨格筋における末梢病理がSBMA病態形成の中心を担う可能性が報告されているが、患者臨床症状、組織病理学的特徴を考慮すると、改めてSBMAにおける運動ニューロンの固有病態も検討する必要がある。我々は人工MOEアンチセンス核酸 (ASO) を用いて、独自に開発したSBMAマウスモデルの運動ニューロンを含めた中枢神経における変異AR mRNAの特異的にノックダウンを試みた。本マウスモデルは97CAGの異常リピートを有するヒトARをもつトランスジェニックマウスであり、特徴的なSBMA様の神経症状を呈しており、我々はこのマウスにおけるASOの治療効果を検討した。 発症前に、側脳室内投与されたASOは効率的にマウス中枢神経に限局して、変異AR mRNA発現レベルを用量依存性に抑制した。また本ASO治療は、脊髄運動ニューロン、神経筋接合部、骨格筋といった運動器病理学的構造を改善し、さらにマウスの運動機能障害発症および進行を遅らせ、有意な体重増加、延命効果を示した。これらの結果により、SBMAにおける変異ARタンパク質の神経毒性の重要性が再認識され、主に効果、忍用性の点においてSBMAに対する、ASO治療の適用性が支持された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
近年主にマウスモデルを用いた研究から、変異ARタンパク質の毒性による、骨格筋などにおける末梢病理がSBMA病態形成の中心を担う可能性が報告されているが、ヒトSBMAではみられない致死的な尿閉を呈するマウスモデルも報告されており、病態論がマウスモデル特有の末梢病態に左右されている可能性もある。しかし本研究課題の、人工アンチセンスオリゴヌクレオチドを用いた変異RNAのノックダウン研究により、マウスレベルでの神経病態を標的にした治療法の可能性を見出すことができ、さらにバイオテクノロジーの進歩のもと、迅速な技術応用が神経変性疾患においても可能であることを再確認できている。本研究成果は、既に論文や数々の学会などで発表している。現在、ASO治療前後のマウス脊髄における網羅的遺伝子発現解析、比較解析が進行中である。またASO末梢臓器投与に関しては、様々な投与方法の試みを通じて、末梢臓器における効率的なARノックダウン法や治療効果の最適化を行っており、最適のASO投与法と、重要な治療標的臓器を見出そうとしている。加えて、SBMAにおける中枢、末梢病態の相対的重要度、またASO介入時のAR核内凝集レベルと、ASOの治療反応性も検討している。
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今後の研究の推進方策 |
SBMAでは変異ARの核内集積による転写障害、それに続く軸索輸送障害、ミトコンドリア機能障害などが細胞毒性に関わる。AR核内集積は運動ニューロンにおいてとくに著しい。そこで上述した網羅的遺伝子発現解析を通して、細胞特異性や、発達時期後の成人発症に関する病態機序、さらにAR上流の転写制御機構や、AR下流の、ニューロンの機能障害と変性をおこす分子経路のさらなる解明を試みている。さらに脊髄運動ニューロンにおける網羅的遺伝子発現解析を予定しており、発症早期SBMAマウスあるいはASO治療マウスの脊髄運動ニューロンをレーザーキャプチャーマイクロダイセクションにより切り出し、マイクロアレイを用いて網羅的遺伝子発現解析、比較解析を行い、治療標的となる病態の分子ネットワークを見出すことを予定している。一方SBMA末梢病態、特に骨格筋病態の有無の検討ならびに解明を、我々のマウスモデルに対するASO治療の効果判定なども踏まえて、さらに推進していく予定である。
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