研究課題
平成27年度までの研究によって、アミロイド刺激によって、アストロサイトから放出される因子を複数同定した。これらの因子の中で最も我々が注目したのはIGFBPと呼ばれる分子である。IGFBPは、本来栄養因子であるIGFのシグナル調節を担うタンパク質である。アミロイドの刺激によってアストロサイトから放出されたIGFBPは、IGFの神経細胞に対する栄養因子としての働きを抑制する。さらに、IGFに依存しない分子機構によって、神経細胞内のタウリン酸化を促進する。実際に、アルツハイマー病の剖検脳においても、IGFBPの増加が認められ、病態に関与していることが示唆される。我々の実験結果からは、アストロサイトからのIGFBPの放出は、アルツハイマー病の発症に関わる有力な仮説である「アミロイド仮説」において、アミロイドの産生、蓄積(老人斑形成)とタウのリン酸化(神経原線維変化)の間を繋ぐ新たなメカニズムであると考えられた。本研究は、ニューロンの中で起こる病的な変化に、アストロサイトからの放出因子が関与し、ニューロン(アミロイド産生)→アストロサイト(IGFBPの放出)→ニューロン(タウのリン酸化、神経原線維変化)のクロストークの中で、アルツハイマー病の病理像が進展していき、最終的に神経細胞死へと繋がっていくことを示している。本研究の内容はMolecular Brain誌(2015 Dec 4; 8(1) 82)に英文原著論文として投稿し、無事に掲載された。
3: やや遅れている
IGFBPのタウリン酸化にきたす影響について、アルツハイマー病のリスク因子であるApoEジェノタイプがどのように関与しているかを現在細胞培養実験により検討中であり、こちらは順調に進行している。一方、ApoEノックインマウスとAPPマウスの掛け合わせ実験,IGFBPトランスジェニックマウスの掛け合わせ実験を予定しているが、マウスの取得に時間を要しており、このためやや遅れている。
引き続きアストロサイトとニューロンのクロストーク機構の解明を目的とする。初代神経細胞へ精製したIGFBPに加えAPOE ε3およびε4ノックインマウス初代アストロサイトの上清を負荷し、タウのリン酸化の程度をImmunoblotting法、蛍光免疫染色法で検討する。その際、詳細なタウのリン酸化誘導機序の同定も行う。IGFBPのトランスジェニックマウスとAPOE ε3およびε4ノックインマウスを交配し、リン酸化タウへの影響を検討する。さらに、確証実験としてAPP/ APOE ε3およびAPP/ APOEε4マウスを用いて老人班近傍のニューロンに着目しリン酸化タウ量を免疫組織染色法で検討する。
平成27年度行なう予定であった実験がやや遅れており、一部、平成28年度に持ち越すことになったため。
平成28年度は前年度より引き続く実験を行ない、総括を行なうため、抗体や実験消耗品を購入する予定である。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件)
Mol Brain
巻: 4;8(1) ページ: 82
10.1186/s13041-015-0174-2.
PLoS One.
巻: 10(9) ページ: e0131199
10.1371/journal.pone.0131199.