研究課題/領域番号 |
26461279
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
安部 貴人 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (30365233)
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研究分担者 |
畝川 美悠紀 慶應義塾大学, 医学部, 助教 (10548481)
高橋 慎一 慶應義塾大学, 医学部, 准教授 (20236285)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 脳虚血 / Nrf2 |
研究実績の概要 |
In vitro、in vivoモデルにおいて、脳虚血におけるNrf2の役割を検討した。In vitro実験においては、神経系培養細胞においてNrf2システムを活性化させる刺激を行い、Nrf2の局在の変化、各種グルコース代謝パラメーターの評価等を行った。さらに、in vivoマウス脳虚血モデルにおいて、梗塞体積とNrf2活性の関連を検討している。マウス脳虚血モデルにおいては、外頸動脈より挿入した塞栓糸にて中大脳動脈を閉塞、20-40分後塞栓糸を取り除き再灌流を行っている。また、近年NMDA toxictyにおいてNrf2システムの関与が報告されているが、今回NMDA受容体のco-agonistであるD-serineのマウス脳梗塞体積への影響を検討した。D-serine合成酵素であるserine racemase ノックアウトマウス(SRR-/-)群とWT群間で、マウス脳虚血モデルにおける再灌流24時間後の梗塞体積を比較したところ、SRR-/-マウスにおいて有意(p<0.05)に縮小していた。 また、再灌流後経時的に虚血側大脳半球のD-serine含有量を2次元HPLCにて測定したところ、脳虚血後の組織においてD-serine含有量は20時間程度をピークに上昇を認め、SRR-/-マウスでは、WTに比べ20時間後の虚血巣におけるD-serine量が約10%まで低下していた。この結果より、D-serineはNMDA受容体co-agonistとしてグルタミン酸作動性神経の興奮に不可欠なものの、脳虚血時には神経障害を増悪させると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
In vitro、in vivoともに実験系を確立し、評価を開始しているものの、Nrf2活性化による梗塞体積の変化、梗塞後の神経症状の検討が終了していない。これらは今後の研究方針を決めるうえで重要な結果となるため、実験のペースをあげて進めていきたい。また、マウスにNrf2を強制発現させる実験系を確立する予定であったがまだ現実化しておらず、来年度以降に検討している。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きin vitro, in vivoの脳虚血モデルにおいてNrf2の役割を検討していく。In vitroにおいては、低酸素インキュベーターを用いて、培養アストロサイトに低酸素、低グルコース負荷を行い、in vitroでの脳虚血モデルである Oxygen-glucose deprivation (OGD)を作成、脳虚血時のPPP活性、Keap1/Nrf2 system活性を検討する。また、Keap1/Nrf2 systemを活性化し抗炎症・細胞保護作用を呈するといわれているdimethyl fumarate(DMF)投与による細胞のviabilityの変化を明らかにしていく。In vivoにおいては、動物モデルとして、小泉モデルとして知られるナイロン糸による一過性中大脳動脈閉塞モデル(MCAO)を用いる。再灌流後経時的に脳を摘出し、Nrf2発現の梗塞部、健常部での差異を免疫染色にて観察し、さらに蛍光二重染色を用い、Nrf2の細胞レベルでの局在と、虚血障害による発現の変化を検討する。MCAO後に虚血脳サンプルを採取し、Keap1/Nrf2 system活性をrealtime RT-PCR、ウエスタンブロットにより検討する。Nrf2過剰発現マウス、Nrf2ノックアウトマウス、DMF投与マウスにおいて、再灌流72時間後に脳を摘出、クライオスタットにて600マイクロメートル毎にスライスを採取、クレシルバイオレット染色により梗塞巣の体積の評価を行う。また、運動機能の評価を再灌流後経時的に行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
Nrf2の虚血に対する影響の評価のため、Nrf2遺伝子を強制発現させたマウスモデルを作成する予定であった。しかし現在組み換えアデノウィルスベクターの作成に至っていない。そのためマウス脳室内投与のため必要であった定位脳固定手術装置の購入は、来年以降に検討したい。
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次年度使用額の使用計画 |
虚血脳における抗酸化mRNAの発現を検討するためのRT‐PCR、蛋白発現を検討するためのウェスタンブロットなど分子生物学的アッセイに費用がかかっており、科研費はまず物品費に充当していく。また、平成27年度より大阪市立大学に転籍となったため、学会における成果発表、慶應義塾大学でのミーティング参加のための旅費に関して昨年より多く見積もっていく。
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