研究課題
α-ジストログリカン(α-DG)は各種筋ジストロフィーの原因となるジストロフィン糖蛋白複合体の主要な構成蛋白質である。α-DGは糖鎖を介して細胞外のラミニンと結合することで細胞膜を安定化し、細胞内外のシグナル伝達に寄与している。近年α-DGの糖鎖修飾を司る糖転移酵素群の遺伝子異常により筋ジストロフィー、脳奇形、眼球の異常など多彩な疾患が発症することが明らかとなりこれらはα-ジストログリカノパチーと総称されている。本研究はα-ジストログリカノパチーの原因となっている糖転移酵素を投与することでα-DGの糖鎖修飾を回復させて疾患治療を目指す、すなわち糖転移酵素補充療法の実現に向けての基礎的な研究を行うことを目的として行われ、以下の結論を得た。1)CRISPR/Cas9のゲノム編集技術により、培養細胞を用いた糖転移酵素補充療法のアッセイ系を確立した。すなわちHEK293細胞を用いて、α-ジストログリカノパチーの代表的疾患である福山型先天性筋ジストロフィーの原因遺伝子fukutinに対するゲノム編集を行った。この結果fukutin遺伝子のexon 5に1塩基挿入を有する変異体を得る事ができた。この変異はフレームシフトを引き起こすためfukutinが機能せず、α-DGの糖鎖修飾不全が生じていた。2)糖転移酵素補充療法では目的とする酵素が小胞体まで運ばれなくては糖鎖修飾は正常に行われない。そこでfukutinを小胞体へ運搬するための担体としてリシンBサブユニットを利用した。すなわちfukutinとリシンBサブユニットとの融合蛋白質を発現し、上述のfukutin機能欠損HEK293細胞におけるα-DGの糖鎖修飾を検討した。その結果本細胞株におけるα-DGの糖鎖修飾が回復することが示された。以上より本研究により将来的な糖転移酵素補充療法の開発に向けての端緒が開けたものと考えられる。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
Proc Natl Acad Sci USA
巻: 113 ページ: 10992-10997
10.1073/pnas.1605265113