研究課題/領域番号 |
26461286
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
中道 一生 国立感染症研究所, その他部局等, 研究員 (50348190)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 脳神経疾患 / ウイルス / 進行性多巣性白質脳症 / 感染症 |
研究実績の概要 |
進行性多巣性白質脳症(Progressive Multifocal Leukoencephalopathy:PML)はJCウイルス(JCV)に起因する致死的な脱髄疾患である。JCVは多くの健常人において不顕性に持続感染しているが、免疫能が低下した一部の患者では、ウイルスゲノムDNAのプロモーター領域(調節領域)に多様な変異が生じ、大脳白質等においてJCVが増殖する。 PMLに対する根本的な治療法は確立されていないため、その治療では免疫抑制の解除に重点が置かれる。しかし、近年では、抗マラリア薬であるメフロキンがJCVの増殖を抑制することが報告されており、日本を中心として同薬剤によるPMLの進行停止や症状の改善等が報告されている。一方、メフロキン治療が無効であった症例も報告されている。これらの相違を生み出す背景には、患者の個人差や基礎疾患の種類、PMLの進行段階、ウイルス自体の特性等の因子が関係する可能性があるが、その特定には至っていない。 本研究は、「ウイルス学・疫学・統計学分野の学際的なアプローチによって、PML患者の脳脊髄液におけるJCVの変異パターンを網羅的に解析し、治療効果との相関性を明らかにする」ことを目的とする。 平成27年度の本研究では、これまでに登録されているJCVの調節領域(約2,300配列)を対象として、配列情報のアライメントによるクリーンナップを実施した。得られた調節領域において同一配列を除外した後、患者の疾患や検体の種類等のメタデータを照合した。その後、健常人およびPML患者に由来するJCVの調節領域を対象として、特定の短鎖配列の種類や頻度をハイスペックコンピューターによる高速演算および統計学的手法によって解析した。PML患者に由来するJCVの調節領域では、その変異において規則性が存在していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度においては、JCVの調節領域に生じる多様な変異を大型コンピューターによる高速演算および統計学的手法によって解析した。また、この手法を用いて調節領域のパターニングを行うことで、PMLに伴うJCVの変異に何らかの規則性があることを見出した。加えて、代表研究者らは国内の医療機関からのJCV検査の依頼を受け付けており、本年度においても臨床検体に由来する多数の変異型JCVのDNAクローンを得た。これらのクローンは匿名化された患者情報とリンクしているため、発症リスクや臨床経過といったメタデータの解析が容易である。以上の結果から、本研究は計画に沿って進行していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度の本研究では、JCVゲノムの調節領域における変異のパターンと臨床経過との関連性を詳細に解析する。特に、診断後のフォローアップにおいてPMLの病態が進行し続けた患者群、および病態の進行停止や改善が認められた患者群を対象として、JCVの変異パターンの相違を大型コンピューターによるシミュレーションおよび統計学的手法を用いて解析する。PMLの病態に関連するJCVの変異パターンが認められた場合には、それらの変異を診断時のマーカーとして応用しうるか否かを明らかにする。医療機関におけるJCVの検査支援は現在も実施しており、変異型JCVのDNAクローンの構築および患者情報の収集については今後も継続する。また、必要に応じてデータベースを更新し、より詳細な情報解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末納品等にかかる支払いが平成28年4月1日以降となったため、当該支出分については次年度の実支出額に計上予定。平成27年度分についてはほぼ使用済みである。
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次年度使用額の使用計画 |
上記のとおり。
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