研究課題
進行性多巣性白質脳症(Progressive Multifocal Leukoencephalopathy:PML)はJCウイルス(JCV)に起因する致死的な脱髄疾患である。JCVは多くの健常人において不顕性に持続感染しているが、免疫能が低下した一部の患者では、ウイルスゲノムDNAのプロモーター領域(調節領域)に多様な変異が生じ、大脳白質等においてJCVが増殖する。PMLに対する根本的な治療法は確立されていないため、その治療では免疫抑制の解除に重点が置かれる。しかし、近年では、抗マラリア薬であるメフロキンがJCVの増殖を抑制することが報告されており、日本を中心として同薬剤によるPMLの進行停止や症状の改善等が報告されている。一方、メフロキン治療が無効であった症例も報告されている。これらの相違を生み出す背景には、患者の個人差や基礎疾患の種類、PMLの進行段階、ウイルス自体の特性等の因子が関係する可能性があるが、その特定には至っていない。本研究は、「ウイルス学・疫学・統計学分野の学際的なアプローチによって、PML患者の脳脊髄液(CSF)におけるJCVの変異パターンを網羅的に解析し、治療効果との相関性を明らかにする」ことを目的とする。平成28年度においては、PMLの診断後にメフロキン等の治療によるフォローアップがなされた33症例を対象として、患者のCSF中JCVに由来する調節領域のクローンライブラリーを構築した。また、各クローンの変異および患者の臨床情報を解析した。33症例のうち、16例においてはフォローアップ期間においてCSF中JCV量が減少し、残りの17例においてはCSF中JCV量が減少しなかった。両群のCSFからクローニングされたJCVの調節領域は多様な変異を有しており、メフロキン投与後のJCV量の変動はウイルス側よりも患者側の背景に依存する可能性が示唆された。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 1件)
Microbiology and Immunology
巻: 60 ページ: 253-260
10.1111/1348-0421.12372.
Journal of the Neurological Sciences
巻: 368 ページ: 304-306
10.1016/j.jns.2016.07.045.