研究実績の概要 |
視神経脊髄炎 (NMO) は多発性硬化症 (MS) との異同が長く論じられてきた中枢神経脱髄疾患である. NMO は近年, (1) アクアポリン 4 (AQP4) を標的とする自己抗体が原因のアストロサイトパ チーである, (2) 免疫グロブリン・補体の血管中心性沈着と, 好中球など顆粒球系細胞の集積を病変に認める, (3) インターフェロン (IFN)-beta療法などのMS に対する疾患修飾薬が増悪因子になることが発見され, その免疫基盤は MS とは異なると考えられている. 本研究では「顆粒球系細胞の活性化による好中球細胞死 (NETosis) や好中球細胞外捕捉 (NETs) 形成が, I 型 IFN シグナルと協調することで, 免疫寛容の破綻とAQP4抗原に対する自己免疫応答の活性化を促し, NMOの病巣形成の始動と炎症量の増幅をもたらす」という仮説を立て, 証明することを目的とする. 初年度である平成26年度は上記目的を達成するための基盤と考え, 以下を行った. (1) 免疫組織学的検索によりNMOの中枢神経系に顆粒球系細胞の浸潤形態の詳細を検討した. (2) 疾患対照として, 顆粒球系細胞が病態に重要な役割を持つ細菌性髄膜炎などを対象にNETsを検討し, NMOとMSにおけるNETs検索の基盤を作成した. (3) 健常者における顆粒球系細胞表現型の多様性解析や, プライミング刺激による活性酸素量を定量化し, NMOとMSの末梢血・髄液の顆粒球系細胞の表現型解析の基盤を形成した. 本研究の継続により顆粒球系細胞の役割が明らかになれば, NMOやMS の新しい分子標的療法・新規治療ツールの可能性を提言するだけにとどまらず, 自己免疫疾患において自然免疫機構 (顆粒球系細胞とその上流) と適応免疫機構 (自己抗体) を繋ぐ新たなメカニズムを探索できる可能性がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年は3年計画の1年目である. これまでにNMOとMSの中枢神経病理を検索することにより, NMOにおける自然免疫機構, 特に顆粒球系細胞の浸潤形態を明らかにしてきた. 引き続き, 顆粒球系細胞の機能を明らかにするための基盤となる予備実験を終了している. 現在, NMOとMSにおける顆粒球系細胞の機能検索を精力的かつ多角的に進行している途上である.
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今後の研究の推進方策 |
研究実績概要の通り, 初年度である平成26年度は本研究の基盤となる重要な結果「NMO病変における顆粒球系細胞の浸潤形態」を明らかにしてきた. しかし一方で「顆粒球系細胞の機能」に関する検索は進行の途上であり, 完了していない. この状況に対応するために, これまでの研究体制にさらに研究協力者1名を増員し, 今後の研究を推進する予定である.
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次年度使用額の使用計画 |
(1) 現在進行中の「中枢神経系脱髄疾患 (NMOとMS) における顆粒球系細胞の活性化, NETosis・ETOsis, NETsの解析」を完成させる. 具体的には, (a) NMOとMSの剖検症例の中枢神経病巣にNETs形成を病理学的に証明する. (b) NMOとMSの末梢血・髄液での顆粒球系細胞の活性化・活性酸素種 (ROS) の過剰産生を証明する. (c) NMOとMS患者血清中にNETs形成を誘導する因子を証明する. (2) 中枢神経系脱髄疾患 (NMOとMS) での顆粒球系細胞の活性化を誘導する '自然免疫細胞群' を同定するための研究を開始する. 具体的には, (a) NMOとMSの顆粒球系細胞の活性化を惹起する因子を産生する「自然免疫細胞群」を同定する基盤となる研究を開始する.
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