研究実績の概要 |
本年度大脳白質病変を合併するアルツハイマー型認知症(AD)患者の血清中に存在する抗血管内皮抗体の認識抗原としてAnnexin A2を同定した。次にAD患者の血清抗Annexin A2抗体価と大脳白質病変との関連性を検討した。AD患者39名、脳血管性認知症患者19名、その他神経疾患患者19名、健常者14名の血清抗Annexin A2抗体価をELISA法により測定し、大脳白質病変に関しては、その重症度をFazekas rating scaleを用いperiventricular hyperintensity (PVH)とdeep and subcortical white matter hyperintensity (DSWMH)に分け、評価した。各疾患・健常者群間で抗Annexin A2抗体価に差は認めなかった。しかしAD患者における検討では、抗Annexin A2抗体価は、PVH score(R=0.326, P=0.043)およびDSWMH score(R=0.336, P=0.036)と正の相関関係を示した。一方、ラクナ梗塞の有無で抗Annexin A2抗体価に差はみられなかった。Annexin A2は血管内皮細胞膜表面に発現し、tPAとプラスミノーゲンと結合しプラスミンの生成に関与することにより線溶系を促進することが知られている。Annexin A2欠損マウスでは、血管内皮細胞表面のtPAによるプラスミン生成が阻害されるため、傷害血管における血栓消退が遅延する他、血管新生も抑制されるとする報告もある。一方、抗Annexin A2抗体は抗リン脂質抗体症候群や脳静脈血栓症で検出され、血栓形成病態との関連性が示唆されている。AD患者における抗Annexin A2抗体は、線溶系抑制、血管新生の抑制を介し、大脳白質病変の進展に関与している可能性が推測された。
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