研究課題
我々はセルロプラスミン(CP)遺伝子の変異により、脳を含む全身に過剰な鉄沈着をきたす無CP血症を見出している。無CP血症では、貧血、糖尿病などの症候に加え、脳への過剰な鉄沈着に対応して不随意運動、運動失調、認知症などの神経症状を発症することを明らかにしてきた。今回、過剰鉄による細胞障害のメカニズムを明らかにする中で、脳のみならず全身臓器での亜鉛の減少を発見した。そこで、過剰鉄による細胞毒性に対し、何らかの作用を亜鉛がきたすという仮説のもと、その作用について検討した。その結果、過剰鉄による細胞障害に対し亜鉛が防御的に作用することを明らかにした。一般的に沈着鉄は水酸化第二鉄(Fe(Ⅲ))といわれており、ヘモジデリン化合物と考えられている。この化合物の中央部はジオキソ架橋二核鉄(Ⅲ)種からなり不溶性であるが、pH7の環境でアミノ酸、ペプチド、クエン酸などのキレート化合物を加えるとオキソイオンが消失して水溶性になる。キレートされた鉄錯体(Fe(Ⅲ)-chelate)は水溶性と沈着状態との平衡関係にある。これに過酸化水素が作用すると(オキソ)(パーオキサイド)架橋二核鉄(Ⅲ)種が形成される。これは強力な酸化力を有しており細胞傷害を引き起こす。(オキソ)(パーオキサイド)架橋二核鉄(Ⅲ)種は周辺のタンパク質や核酸と反応し、酸化・分解してジオキソ架橋二核鉄(Ⅲ)種となり沈殿する。無CP血症では、アミノ酸やクエン酸などをキレートとした水溶性鉄(Ⅲ)キレートから(パーオキサイド)架橋二核鉄(Ⅲ)種が生成されて細胞傷害をきたし、同時にオキソ架橋鉄(Ⅲ)重合体・鉄沈着により鉄を無毒化することが観察されている。この無毒化の過程を亜鉛イオンが促進することを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
無CP血症をモデルにして、神経変性症における病期の進行に微量金属代謝がどのように関わるかを明らかにし、次に神経変性の過程における新たなターゲットを見出し、治療を開発に繋げることが今回の研究の目的である。その意味において、今回の亜鉛による鉄の細胞毒性に対する抑制効果の発見は、新たな治療を開発する上でひとつのアプローチとなる可能性を示した。更には、培養細胞での鉄関連蛋白質の相互作用に対する亜鉛の作用、特に鉄とアポトランスフェリンの結合、あるいはヘプシジンと鉄トランスポーターであるフェロポルチンとの相互作用に対する亜鉛の効果を明らかにする予定である。
神経細胞腫瘍由来のSCCH-26細胞、比較的鉄沈着をきたしやすいドパミン作動系神経細胞、ドパミン系と密接に関連するコリン作動系神経細胞、および対照にグリア細胞腫瘍由来のC6細胞、ヒトアストロサイト培養細胞を用い、CPをノックダウンすることによる鉄の細胞毒性の発現とそれに対する亜鉛の効果をみる。また、3価鉄とアポトランスフェリンの結合について、そのまま2つを混在させても結合反応が起こらないないことから何らかの介在が必要と考えられている。既に我々は、亜鉛がこの結合に不可欠であることを見出しており、そのメカニズムについて、表面プラズモン共鳴法を用いて分子レベルで明らかにする。
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J Clin Transl Hepatol
巻: 3 ページ: 85-92
Expert Opinion on Orphan Drugs
巻: 3 ページ: 1011-1020
10.1517/21678707.2015.1067137