研究課題
セルロプラスミンはその鉄酸化作用により細胞内から細胞外への鉄の輸送に関与している。鉄トランスポーターの膜タンパク質、フェリポルチンにより輸送された2価鉄は細胞外のセルロプラスミンにより酸化されて3価となり、鉄輸送タンパク質のトランスフェリンに結合して輸送される。無セルロプラスミン血症はセルロプラスミン遺伝子の変異による機能喪失のため全身の組織に鉄が沈着する常染色体劣性遺伝の疾患である。成人発症の網膜変性、糖尿病、鉄不応性貧血、神経症候を呈する。本疾患では、過剰鉄により酸化ストレス、脂質過酸化が亢進して臓器障害をきたす。今回の研究では、中枢神経系において重要な役割を果たす鉄以外の微量元素、銅、亜鉛、マンガンなどのニューロメタルに着目した。なかでも抗酸化作用のある亜鉛について、患者の血液および剖検脳、各臓器の組織濃度を測定し、培養細胞の鉄排出系における亜鉛の効果を検討した。その結果、患者血中の亜鉛濃度は低下しており、剖検脳および各臓器(腎臓を除く)においても減少していた。また、亜鉛がフェロポルチンの安定化に関与すること、また細胞外へ排出された鉄がトランスフェリンに結合する際にその安定化と結合促進に作用することを明らかにした。また、本疾患の脳では、銅の増加、マンガンの増加も認められた。そこで、鉄、亜鉛のトランスポーターについて検討したところ、亜鉛トランスポーターZnT10がマンガンを輸送することを見出した。鉄排出の異常による鉄過剰蓄積が起きる場合、他のニューロメタルとのクロストークがあると考えられ、鉄代謝異常の改善を図る治療法に結びつく可能性が考えられる。
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J Biol Chem
巻: 291 ページ: 14773-14787