研究課題
アレキサンダー病はアストロサイト特異的マーカーである GFAP遺伝子に変異を持つ、唯一の monogenic glial cytopathy である。臨床的には 1)乳児型、2)若年型、3)成人型の亜型に分類される。乳児型は前頭葉優位の大脳白質に、若年型は後頭蓋窩(脳幹および小脳)、成人型は特に延髄~頸髄に病変の主座があり、それぞれの臨床症状および頭部MRI画像は異なる。臨床症状および遺伝子変異の連関は、現在のところ不明である。そこで我々は、臨床的にアレキサンダー病が疑われる症例において GFAP遺伝子診断を積極的に施行している。平成26年度には新たに3症例の遺伝子検査を施行したが、いずれも陰性であった。なお GFAP遺伝子検査前のスクリーニング検査で、本邦では比較的まれな上、頭部MRIで "hot cross bun" sign が陽性である SCA1 の家系を見い出した。さらに GFAP遺伝子変異がみられないアレキサンダー病様の臨床像を呈する家系を対象とし、次世代シーケンサーを用いた新規遺伝子の同定を目指している。現在、血族婚のある 1家系を対象に進行中である。一方、疾患の病態生理を解明するため、同時に基礎研究も遂行中である。特に変異型GFAPタンパクが神経変性を引き起こす機序を解明するのにあたり、近年同定されたアストロサイトに特異的に発現する新規小胞体ストレスセンサーである OASISタンパクに着目している。この相互連関を明らかにすることにより、アストロサイトの分化の調整に新たな知見を加えられるであろう。さらに本研究はアレキサンダー病のみにとどまらず、脳血管障害、頭部外傷、神経感染症、自己免疫性疾患など広範な神経疾患におけるアストロサイトの関与を明らかにできる可能性があり、神経科学研究のブレイクスルーとなりうる可能性を秘めている。
3: やや遅れている
臨床研究であるアレキサンダー病の GFAP遺伝子診断に関しては、学内および学外の候補症例を3名検査実施した。いずれも全exonおよびexon-intron boundaryには既知のSNPs以外には変異を同定できなかった。つまり臨床症状および遺伝子変異の連関 (phenotype-genotype correlation) に関しての新たな知見を得ることはできなかった。次世代シーケンサーを用いた GFAP遺伝子変異が同定されない1家系における新規遺伝子探索については、家系内での検体収集が終了したところであり、未だ同定には至っていない。今後も研究の継続が必要である。臨床研究をさらに進めるには、当施設で GFAP遺伝子診断をしていることを広く啓発する必要があろう。なおGFAP遺伝子解析前に、既知の脊髄小脳変性症や遺伝性痙性対麻痺の遺伝子解析を施行しているが、この際本邦では比較的まれなSCA1が発見された。頭部MRIで通常みられない”hot cross bun” sign が陽性であり、これを第55回日本神経学会学術大会(福岡)で報告した。このように臨床研究では、思わぬ副産物もあった。一方、培養細胞系を用いた変異GFAP と OASIS との連関についての研究は、未だ着手されていない。その大きな原因はこの1年間、臨床業務の負担が過度であったこと、他の臨床研究に時間が取られたこと、研究分担者の協力が十分に得られなかったことなどが挙げられる。
2015年4月から研究代表者である滑川道人が、自治医大の本院から、附属さいたま医療センターへと異動になった。そのため研究室を、栃木からさいたま市へと移動させた。臨床研究であるアレキサンダー病のGFAP遺伝子診断に関しては、新たな症例をリクルートするため、外部機関にも積極的に働きかけ、当センターでGFAP遺伝子解析が可能であることを啓発してゆく。今後、ホームページへの掲載も検討中である。基礎研究に関しては、新たな実験室(さいたま医療センター直轄の「臨床医学研究所」)。はオープンスペースの共同実験室であることから、比較的自由に共同機器を使用できる。その恩恵を十分に享受すべく、新たな実験も検討中である。
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