研究課題
自己抗体と臨床像、筋病理の関連を明らかにすることで炎症性筋疾患の統合的診断を行い、自己抗体測定の意義を明らかにした。全国から送付された生検筋と血清をもとに、国立精神・神経センター (NCNP)では筋病理診断を、我々はRNA免疫沈降法により自己抗体測定を行った。その結果、抗signal recognition particle (SRP)抗体が従来考えられていたより、高頻度であることが明らかになった。抗SRP抗体陽性例、発症年齢が若く、筋症状は重篤で筋萎縮を伴う傾向にあった。またスタチン誘発性ミオパチーの原因となる、3-hydroxy-3-methylglutary-coenzyme A reductase (HMGCR) に対する自己抗体のenzyme-linked immunosorbent assay (ELISA) を樹立した。筋病理で診断が確定し、RNA免疫沈降法で自己抗体陰性であった炎症性筋疾患75例を対象とした。抗HMGCR抗体のELISAは吸光度 450 nmにおけるoptical densityの値をスタチン誘発性ミオパチー患者の標準血清との比で評価した。筋病理診断ごとの陽性率は壊死性筋症において高頻度に検出された。抗HMGCR抗体陽性8例 (M:F = 5:3)の平均年齢は66歳であり、スタチン内服例は3例であった。症状は2ヶ月以内に進行し、血清CK値はいずれも3000IU/L以上であり初期には横紋筋融解症が示唆された。近位筋優位、左右対称性の四肢筋力低下を全例で認めた。壊死性筋症の筋病理は筋線維の壊死と再生が中心で炎症性細胞浸潤が乏しく、血清中の自己抗体検出が免疫介在性を示唆する根拠となる。抗HMGCR抗体はスタチン内服の有無にかかわらず壊死性筋症で検出され疾患マーカーとしての有用性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
研究課題に関する論文は2報発表でき、今後の研究発展に繋がる研究成果である。
RNA免疫沈降法では検出できない自己抗体についても更なる検討をすすめる。膠原病内科や皮膚科領域から炎症性筋疾患の新規自己抗体の発見が相次いでいる。しかし、筋疾患を中心に診療にあたる神経内科領域において、これら新規自己抗体の測定意義についてはまだ検討されていない。またこれらの新規自己抗体の多くはRNA免疫沈降法で検出できないため、別の測定系が必要である。培養細胞をS-35で標識した抗原に用いる蛋白免疫沈降法を駆使することでこれら新規自己抗体の同定が可能である。蛋白免疫沈降法は研究代表者がMGの自己抗体を測定する上で実施している方法である。ただし特異的な抗原を用いたELISAの方が簡便であり、また抗体価の測定も可能である。炎症性筋疾患の一型で臨床的診断が困難で難治性の経過をとるanti-SRP myopathyに注目する。最適な免疫治療と長期的な神経学的予後を明らかにするため、全国の主治医に対して追跡臨床調査を実施する。診断から2年以上経過した症例に関して施行した免疫治療、その反応性、神経学的予後 (modified Rankin scaleなど)について調査する。この結果からanti-SRP myopathyの最適な治療の提言を行う。最終的にはn = 100の臨床情報の解析を目標にしている。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件)
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