研究課題/領域番号 |
26461301
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研究機関 | 福岡歯科大学 |
研究代表者 |
大星 博明 福岡歯科大学, 歯学部, 教授 (10311838)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 脳梗塞 / 自然免疫 / 遺伝子治療 / 周皮細胞 |
研究実績の概要 |
高齢化社会を迎えてますます臨床的な重要性を増している脳血管障害であるが、その後遺症を軽減する画期的な治療法は未だ開発されていない。脳血管障害の7割を占めている脳梗塞は、急性期に拡大・増悪し、時に急性期死亡をもたらすが、近年急性期脳梗塞における分子機構・シグナル伝達が徐々に明らかになりつつある。脳梗塞の病巣には従来から著明な炎症細胞浸潤を生じることが知られていたが、近年、脳梗塞の増悪過程における免疫応答、特にT 細胞の重要性を示す報告が行われてきている。 我々はこれまでに、遺伝子導入法ならびに遺伝子改変動物を用いて、直接的な分子への干渉によって新たな治療標的を探る研究を行い、抗MCP-1 遺伝子やインターロイキン10 (IL-10)の遺伝子などの導入が、脳虚血後の治療開始であっても、脳梗塞を著明に縮小すること、マクロファージから産生されるインターロイキン23 (IL-23)が 浸潤γδT 細胞でのインターロイキン17 (IL-17)産生を惹起し、脳梗塞の増悪に寄与すること、また、IL23-IL17 axis の上位シグナルとして、ペルオキシレドキシン(Prx)が損傷神経細胞から放出され、damage-associated molecular pattern molecule (DAMP)として免疫担当細胞のToll-like receptorを刺激することを明らかとしてきた。本研究では、脳梗塞の急性期に重要な役割を果たしていると考えられる自然免疫を中心とした炎症反応・免疫応答の重要性をさらに探究することを主要な目的とし、免疫担当細胞の動態ならびに周皮細胞の応答について検討を行った。また、国産ベクターであり細胞質型RNA ベクターとしてその発展が期待されているセンダイウイルス(SeV)ベクターを用いた遺伝子導入を行い、国産遺伝子導入ベクターの有用性を追求することも予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は、我々がすでに重要性を明らかにしたIL23-IL17 axis の上位シグナルやそれを修飾する機構として、脳虚血により惹起されるDAMP 刺激に対応する脳由来および血液由来免疫応答細胞の活性化の機構を検討した。特に脳内免疫担当細胞とされるミクログリアや血液由来マクロファージの役割について、遺伝子改変動物や遺伝子導入技術を駆使して分子生物学的な解析を行い、その動態と炎症性サイトカイン・ケモカインの産生や炎症関連蛋白の発現を検討した。また、周皮細胞は脳の炎症反応の主要な場となる血液脳関門の構成因子であり、脳梗塞の治療標的として近年注目されているneurovascular unitで重要な役割を担っているが、今回の検討では、脳梗塞後の免疫・炎症反応における周皮細胞の動態についてもin vitroおよびin vivo の実験系で検討を行った。 これらの成績は、International Symposium on Mechanisms of Innate immune Immunity, Cell Death and Inflammation 2014や第26回国際脳循環代謝学会で発表した。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度までに行ってきた脳梗塞における免疫・炎症応答に関連した探索的検討を継続する。特に、脳内免疫担当細胞とされるミクログリアや血液由来マクロファージならびに周皮細胞について詳細な検討を勧めていく。また、γδT細胞から産生されるIL-17の下流における脳梗塞増悪機構に関しての検討を行うことで、さらなるtherapeutic time window拡大の可能性を探究する。 また、我々はすでに広汎な炎症抑制作用を有し、Th2応答の重要な因子であるインターロイキン10 (IL-10) 遺伝子を組み込んだアデノウイルスベクターを用い、脳虚血導入後の IL-10遺伝子導入であっても、脳梗塞を著明に縮小し、炎症細胞浸潤が抑制されることを示しているが、近年、IL-10産生性の調節性T細胞 (regulatory T cell: Treg)が脳虚血において脳保護的に作用することが報告された (Nat Med 2009)。しかしながら、その作用時期は比較的後期(脳虚血後7日)と報告されており、その上流シグナルについては十分明らかではない。したがって、Tregの活性化をもたらす上流シグナルの詳細に関しても、系統的な検討を前述の方法を用いて解析する。 平成28年度以降は、それまでに明らかとなった重要シグナルの中から、治療応用が有望な物質を標的とした遺伝子治療についての検討を開始する。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定した実験内容とは別の実験が進行したため、また、既存の物品を活用して成果が得られたため、当該年度で使用した実験動物や細胞培養、試薬などの消耗品ならびにその使用のための物品費が予定より少なくなったが、次年度で従来の計画通り行う予定である。
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次年度使用額の使用計画 |
引き続き、脳虚血を中心とした病態モデルを用いたin vivoの実験ならびに培養免疫担当細胞を用いた in vitroの実験を行う。そのために、実験動物や細胞培養、試薬などの消耗品、ならびにその使用のための物品費および実験遂行のための謝金を必要とする。また、研究成果の発表を国内外の学会で行う予定であり、その際に研究協力者との打ち合わせを行うため、旅費を必要とする。
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