研究課題
当該年度内に2つの成果を得ることが出来た。まず本研究の目的である神経変性疾患における蛋白分解系のはたらきを調べる過程で,ユビキチンE3リガーゼの1つであるSmad ubiquitination regulatory factor 1(Smurf1)に注目した。Smurf1は細胞の成長・移動などの生理的はたらきを介して骨形成,胎児の発生,腫瘍の発生に関与することが知られているが,神経変性疾患への関与は未検討であった。このSmurf1を認識する抗体を用いてアルツハイマー病(AD)脳を免疫組織化学的に検索すると,加齢脳やAD脳に特異的に出現する平野小体が染色された。また,従来平野小体に存在するとされるマーカー蛋白との共局在も証明できた。さらに,培養細胞に人工的に平野小体類似構造物(HB-like F-actin)を形成させるとやはりSmurf1陽性となることも示せた。これらの事実は蛋白分解に重要なSmurf1の機能異常が,加齢やADに関連することを示唆する初めての知見となり,Journal of Neurological Science 336(2014):24-28に発表された。次に同様の目的で,E3リガーゼであり,またオートファジー・ライソゾーム蛋白分解系にも関与するとされるTom1(target of Myb1)に着目し,AD脳で免疫組織化学的検索を行った。その結果海馬において,変性神経突起と神経細胞周囲のperisomatic granulesならびに一部の神経原線維変化に陽性反応を認めた。さらに抗リン酸化タウ,抗autophagosom抗体(LC3),抗ライソソーム抗体(LAMP2)などとの高率な共局在を認めた。これらの事実はAD脳において広範な蛋白分解系の異常が生じていることを示唆していると思われる。この成果は現在投稿準備中である。
2: おおむね順調に進展している
当該研究の目的は神経変性疾患において蛋白質の分解系異常が生じていることを証明し,その詳細を形態学的,生化学的に明らかにすることである。本年度は主としてアルツハイマー病で2種類のユビキチン関連蛋白の異常集積を証明し,既知の病理構造との関連性を示せた。また,成果を論文として発表・準備中とすることができた。以上から,おおむね研究は順調に進展していると判断している。
今後は検索対象をアルツハイマー病以外の神経変性疾患に広げるとともに,研究計画調書に従って超微形態と生化学的検討に入りたい。また,これらの検討を円滑に行う上で新たな抗体の作成を計画したい。
平成27年度に外部業者に抗体の作成を依頼する予定で有り,平成26年度の未使用額を抗体作成費用として使用するため。
外部業者への委託による,複数の新規ウサギポリクロナール抗体の作成。
すべて 2014
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (4件)
J Neurol Sci
巻: 336 ページ: 24-28
10.1016/j.jns.2013.09.028.
Amyloid
巻: 21 ページ: 238-245
10.3109/13506129.2014.949231.
Internal Medicine
巻: 53 ページ: 2245-2250