本研究は神経変性疾患発症における蛋白分解系の関与を検討を目的とし、その鍵となる異常構造物として顆粒空胞変性を想定した。初年度はユビキチンE3リガーゼの1つであるSmurf1(Smad ubiquitination regulatory factor 1)に注目し、アルツハイマー病の脳を免疫組織化学的に検討し、同蛋白が平野小体に存在することを示した。また、培養細胞に実験的に平野小体様構造物を形成させると、やはりSmuf1の発現がみられるようになることも確認した。次年度には、同様にE3リガーゼであり、オートファジー・ライソゾーム蛋白分解系にも関与するTom1蛋白(target of Myb1)がAD脳の変性神経突起と神経細胞周囲のperilysosomal granules、一部の神経原線維変化に存在することを示した。最終年度には顆粒空胞変性内の蛋白修飾を検討する目的でアルツハイマー病脳を抗シアル酸抗体で染色したところ、予想外ではあったが顆粒空胞変性以外に神経原線維変化、変性神経突起が染色された。さらなる検討によってこのシアル化は神経原線維変化、Pick小体、balooned neuronにのみみられ、Lewy小体を始めとした他の異常蛋白構造物にはみられないことが判明し、異常リン酸化タウの凝集とシアル化の強い特異性を示すことができた。 本研究の結果、①アルツハイマー病における蛋白分解系の異常が加齢あるいは疾患特異的な異常構造物にみられること、②疾患特異的なリン酸化タウの蓄積がシアル化の影響も受けていることが示された。
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