パーキンソン病は運動障害のみならず過活動膀胱を中心とした下部尿路機能障害が認められる。進行期パーキンソン病患者では視床下核脳深部刺激療法(STN-DBS)が行われ、運動症状は劇的に改善するが、下部尿路症状への効果は明らかにされていない。ヒトにおける機能的脳画像の研究から、大脳の様々な部位が排尿調節にかかわることがわかっており、特に前頭前野は排尿の随意調節に関わることが明らかとなっている。そこでSTN-DBSの下部尿路機能障害への影響を確かめるため、STN-DBSによる前頭前野の神経活動、神経伝達物質への影響を検討した。実験は正常ラット、パーキンソン病モデルラットの各々で行った。パーキンソン病モデルラットは内側前脳束にカテコラミン神経毒である6-OHDA(6-hydroxydopamine)を注入して作成した。神経活動は局所電場電位を測定し、高速フーリエ変換した後にスペクトル解析を行った。正常ラット、パーキンソン病モデルラットともにSTN-DBSにより前頭前野のパワーはどの周波数帯でも減少傾向を示した。また正常ラットと比較しパーキンソン病モデルラットでは前頭前野のパワーがどの周波数帯でも有意に増大していた。神経伝達物質は正常ラットではSTN-DBS10分後に前頭前野のカテコラミンが増大した後に徐々に減少する傾向を示したのに対して、パーキンソン病モデルラットではSTN-DBSを行ってもカテコラミンはほぼ不変であった。 以上の電気生理学的検討、神経伝達物質測定の結果からSTN-DBSによる高位排尿中枢の前頭前野への効果は異なる可能性があることがわかった。STN-DBSが視床の活動を正常化させることで下部尿路からの求心性活動を正常化させるという報告があるが、このことが前頭前野の機能に影響し神経活動、神経伝達物質の挙動が正常とパーキンソン病モデルで異なった一因と考えられる。
|