研究課題/領域番号 |
26461310
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
川又 敏男 神戸大学, 保健学研究科, 教授 (70214690)
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研究分担者 |
向井 秀幸 神戸大学, バイオシグナル研究センター, 准教授 (80252758)
高橋 美樹子 帝京平成大学, 薬学部, 教授 (90324938)
秋山 治彦 公益財団法人東京都医学総合研究所, 知的財産活用センター, 分野長 (20231839)
前田 潔 神戸学院大学, 総合リハビリテーション学部, 教授 (80116251)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 国際情報交換(カナダ) / 認知症 / 神経細胞変性 / 細胞周期 / 細胞内シグナル伝達 / タウ蛋白 / 蛋白リン酸化酵素 / 蛋白脱リン酸化酵素 |
研究実績の概要 |
主要な認知症であるアルツハイマー型認知症(AD)或いは前頭側頭葉変性症(FTLD)の患者脳組織にはタウ蛋白代謝異常の結果、細胞内に毒性オリゴマー或いは封入体として神経原線維変化(タングル)が蓄積し、ADの症状・神経回路障害の程度と相関が報告されている。近年、タングルなど封入体形成の有無に拘わらず進行する神経細胞死も報告され、タウ代謝初期段階に生じる機能部位のリン酸化-脱リン酸化バランスの破綻や、その反応部位の制御異常の視点から、背景にある細胞周期制御を含む細胞内信号伝達の異常と神経細胞死との関連を検討した。 タウ機能を制御する複数の蛋白リン酸化酵素や蛋白脱リン酸化酵素等と細胞内で会合し細胞機能を調節する巨大scaffold蛋白CG-NAP及び類似分子Kendrinが、免疫系の調節や微小管の形成・伸長或いはGolgi形成・中心体複製制御を介した細胞内物質輸送や細胞周期の制御機能と関連し、CG-NAPに結合してタウをリン酸化するAGCリン酸化酵素の上・下流にある機能分子がタウ蛋白代謝異常或いはタングルと関連することを明らかにしてきた。その上で、この巨大活性複合体を介した細胞内情報伝達機構の破綻と神経細胞変性・死滅の関連について形態学的・分子生物学的解析を実施し、細胞周期制御に関わるCheckpoint kinase 1 (CHK1)やタウ遺伝子転写に関わるPolypyrimidine tract binding protein (PTB)分子との相互作用を解析した。その結果、両分子とAD脳タングル形成との関連を明らかにし、CHK1については培養神経細胞を用いてタウ蛋白代謝との詳細な関連を解析しつつある。加えて皮質神経細胞特性である神経可塑性に関し、運動学習やプロソディ障害発生の機序を分析し報告した。 本年度7月31日以降、研究代表者の病気休職のため一部の研究を中断している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
健常高齢者やAD患者の死後剖検脳組織を対象として、微小管結合蛋白タウの代謝に関連する重要機能分子と活性複合体との共存・結合状態や神経細胞内会合部位を生化学的および形態学的に検討すると共に、活性複合体に結合する機能分子に関する新たな知見を得、共同研究者や研究協力者と相談しながら分析を進めつつある。タウ分子リン酸化修飾に直接影響する蛋白リン酸化・脱リン酸化酵素群と巨大プラットホーム分子CG-NAPあるいはKendrinとが複数分子の細胞内会合状態の調節に関与し、同会合が特定の細胞内コンパートメントで厳密に制御され、タウ蛋白を含む重要基質分子のリン酸化状態を調節すると共に細胞内PI3K-Akt信号伝達カスケード下流のAktによりリン酸化を受ける細胞周期関連分子CHK1の制御に影響することで重要な細胞機能に関係していることを確認しつつある。 我々は、細胞内の蛋白リン酸化酵素活性化カスケードのうちPI3K下流においてPI3K、PTEN、PDK1、PKN、PKC delta、p70 S6Kの変性神経細胞内局在を明らかにし、またこれら機能分子とタウ異常代謝との関連、あるいはS6Kについてアクチン細胞骨格病理との関連を発見し、中心体複製の調節に関与するKendrinの機能を明らかにしている。さらに、タウ遺伝子発現調節関連分子PTBや細胞周期制御関連分子CHK1についても解析を進め、タングル形成との関連を発見した。その後、とくにCHK1分子について改変遺伝子を導入した培養神経細胞を用いて、同分子の細胞内挙動の変化あるいは同分子とタウ代謝異常、細胞周期制御異常あるいは細胞変性-細胞死との関係を明らかにするため、適切なcDNAのデザイン・取得を試みたが現時点では不十分な結果となり、最終的には外部の研究協力組織から適切なCHK1プラスミドを取得して実験方法を再考、改良しながら解析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に得られたCG-NAPあるいはKendrinの巨大プラットホーム分子を中心とした活性複合体に関する新たな知見の解析を継続すると共に、タウ蛋白遺伝子あるいは(Akt下流で機能調節を受ける)CHK1蛋白分子の遺伝子等の活性複合体関連分子に関する改変遺伝子を導入した継代培養神経細胞を対象として、タウ分子あるいはCHK1分子の細胞内の変化を解析する。つまり、取得したプラスミド導入済み培養大腸菌からプラスミドを抽出・回収しCHK1シークエンスの解析・確認を行った後、培養神経細胞へプラスミドを導入し効率を検討する。良好な導入効率の確認後、同細胞内部のCHK1分子あるいはタウ分子の挙動を、蛋白全体あるいは特にAktリン酸化部位など種々のリン酸化部位に特異的な抗体を用いて高感度免疫組織化学法によるタイムラプス撮像など形態学的に、あるいはウェスタンブロット法など生化学的に解析し、CHK1の機能(リン酸化)状態あるいはそのタウや活性複合体に対する結合・共存状態や神経細胞内会合部位、タウ分子の状態、細胞周期変化、細胞変性を生化学的および形態学的に検討する。特にプラスミドの導入方法について再考、改良を加えながら研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度では、上記の活性複合体のうち巨大プラットホーム分子CG-NAP・Kendrinあるいは同分子に関連・結合する重要機能分子(PKN1・PK C特にPKC・PKA・CK1 delta・Cdk2・PDK1・p70 S6K・CHK1などの蛋白リン酸化酵素群や、PP1・PP2A・PP2B・PTENなどの蛋白脱リン酸化酵素群)について、培養神経細胞へ改変遺伝子導入を行い、同培養細胞を対象とする生化学的・病理形態学的解析を行い、その結果を学会あるいは誌上発表予定であった。しかし、改変遺伝子とくにCHK1分子に関する遺伝子導入の結果が不十分であり、研究分担者・協力者と相談しながら進めてはいるものの、研究代表者の病気療養で研究進行が遅れたため導入培養神経細胞の解析をはじめ遺伝子導入実験全体に関する未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
上記のような理由のため、SH-SY5Yなど培養神経細胞に導入する複数の改変遺伝子の調整および効率的な遺伝子導入後の培養細胞に対する生化学的・病理形態学的解析が必要である。とくに細胞周期制御に直接関与する蛋白リン酸化酵素Checkpoint kinase 1分子の培養神経細胞への遺伝子導入に関して平成26年度は不十分な結果となったため、同分子の全長遺伝子のみならず場合によってはAktにより活性化・調節され上記の巨大な分子量をもつscaffold蛋白と結合する限定機能性蛋白フラグメントに相当する遺伝子を調整し、改変遺伝子導入を試みる必要がある。 このような導入遺伝子の調整、および複数の改変遺伝子導入後の培養神経細胞に対する生化学的・病理形態学的解析と、その結果の発表を次年度に行うこととし、未使用額はその経費に充当する。
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