T1R3ノックアウトマウスは高脂肪食下では野生型マウスと比べて脂肪組織重要が少なく,脂肪細胞のサイズが小さいことが報告されている。このことから,T1R3受容体が脂肪組織の慢性炎症に関与する可能性を考え,3T3-L1細胞およびマクロファージにおける炎症性サイトカイン産生へのT1R3受容体の機能についての検討を計画した。27年度の検討により,3T3-L1前駆脂肪細胞においてT1R3受容体刺激によりMCP-1産生亢進がみられたことから,28年度は当初の研究計画通り,マクロファージにおける甘味受容体の機能解析の検討を進めた。RAW264.7細胞およびマウス腹腔マクロファージにはT1R受容体の中でT1R3がドミナントに発現しておりT1R1,T1R2の発現は殆どみられないことから,マクロファージにおいてもT1R3ホモマーが甘味感知受容体として機能していることが示された。RAW264.において,スクラロース刺激により,微小管の脱重合と細胞遊走の抑制がみられた。また微小管の脱重合に伴い低分子量GタンパクであるRhoAの活性化がみられた。さらにスクラロース刺激によりTNFαおよびIL-6等の炎症性サイトカインの産生が促進された。この効果はT1R3ノックアウトマウス由来の腹腔マクロファージでは消失していたことからT1R3ホモマー受容体活性化を介するものであると考えられた。T1R3ホモマー受容体以降のシグナルについても検討を進め,スクラロースによるTNFαおよびIL-6産生促進効果が,Gsのドミナントネガティブ変異体Gαs-G226Aで消失すること,RhoAのドミナントネガティブ変異体RhoA-T19NおよびROCK阻害剤Y-27632により消失することが示された。以上の結果から,マクロファージにおいて,T1R3ホモマー受容体はGsと共役しており,同受容体の活性化は微小管脱重合とRho活性化を介して,TNFαおよびIL-6等の炎症性サイトカインの産生を促進することが明らかとなった。
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