研究課題
脂肪組織におけるM2マクロファージの役割を明らかにするため、M2マクロファージを時期特異的に除去できるマウスを作製した。M2マクロファージのマーカーであるCD206遺伝子を含むBACにおいて、CD206のプロモーター領域の下流にヒトジフテリア毒素の受容体(DTR)cDNAをつなげたコンストラクトを作製し、トランスジェニックマウスを2ライン作成した。両ラインともジフテリア毒素(DT)を投与すると脂肪組織(精巣)上体脂肪組織(eWAT)、鼠経部脂肪組織(ingWAT)において、M2マクロファージのマーカーであるCD206の発現は著明に減少した。また、フローサイトメトリーでも脂肪組織のマクロファージの消失が確認された。したがって、脂肪組織のマクロファージは、通常食下では殆どがCD206陽性のマクロファージであることが判明した。次に、DT投与後にマウス耐糖能を調べると、ブドウ糖負荷試験での耐糖能野生型は改善していた。一方、インスリン負荷試験では、インスリン感受性が亢進していた。このメカニズムを検討するため、脂肪組織の組織所見を調べると、間質の細胞の数が増加するとともに小型脂肪細胞が多数集積していた。また、Glut4, adiponectin, PGC-1α, CPT1bなどの代謝的に良好な脂肪細胞であることを示す遺伝子群の発現が上昇していた。同時にC/EBPβやC/EBPαの発現が増加し、脂肪細胞の分化が亢進していることも示唆された。CD206陽性マクロファージの除去により、小型脂肪細胞が増加しインスリン感受性が改善するメカニズムについて、そのメカニズムを検討している。現在、M2マクロファージの除去がどのようにインスリン感受性亢進に関与するかについて検討したい。
2: おおむね順調に進展している
1.CD206DTRマウスにおいて、M2マクロファージの除去により耐糖能が改善し、その原因がインスリン感受性の改善であることが確認されており順調である。2.申請書に述べたように、高脂肪食の状態でもインスリン感受性の改善により耐糖能の改善がみられた。そのメカニズムを解析する過程で、本来、抗炎症作用を有するM2マクロファージを除去すると炎症細胞が増加すると予想されたが、実際には王冠様構造(Crown-like structures)の数の減少、M1マクロファージマーカーや炎症性サイトカインの発現の低下がみられるという結果になった。現在、さらにメカニズムを解析中である。
1.M2マクロファージは、抗炎症作用により脂肪組織の炎症を抑え、インスリン感受性を改善すると報告されてきた。本マウスの解析では、M2マクロファージの除去によりインスリン抵抗性が改善するという予想とは逆の結果であった。また、高脂肪食下でのM2マクロファージの役割を検討したが、炎症性のM1マクロファージは増えるどころか減少するという意外な結果を得た。このことは、M2マクロファージには抗炎症作用以外の作用があることを示唆する。M2マクロファージの増加がインスリン感受性を増加するというこれまでの報告と、M2マクロファージの除去がインスリン感受性を改善するという本研究提案により得られたデータを統一的に理解できるように実験を行なう。2.CD206細胞の除去が糖尿病の合併症に与える影響を検討する。ob/obマウスの脂肪組織におけるマクロファージの解析を行っている。
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すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 1件、 査読あり 7件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 2件)
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