研究課題
脂肪萎縮症は、遺伝子変異に伴って生じる先天性脂肪萎縮症と自己免疫や薬剤性の機序が推定される後天性脂肪萎縮症とに分けられる。後天性脂肪萎縮症については、外的要因の評価が難しく病態生理の解明を行うことは困難である。先天性脂肪萎縮症は、いくつかの遺伝子における変異が報告されており、遺伝子の機能変化・喪失が主要なメカニズムであると予想され、患者由来細胞による病態生理の解明が期待される。我々は、先天性脂肪萎縮症患者の中で、LaminA/C遺伝子変異を有する先天性部分性脂肪萎縮症患者の女性から疾患特異的iPS細胞樹立を試みた。インフォームドコンセントを得た女性患者1名の皮膚を生検した。組織をトリミングした後、カバーグラスを上から覆い培養ディッシュ上へ接着させることにより、線維芽細胞が付着細胞として増殖した。線維芽細胞へOCT3/4, SOX2, KLF4, c-MYCを発現するレトロウイルスを感染させた。1カ月程で辺縁整で円形のヒトES様コロニーが出現し、9クローンをピックアップして継代培養を行った。樹立した9クローンのうち3クローンを詳細に解析した。まず、未分化マーカーであるSSEA-4, NANOGの発現を免疫染色で確認した。またアルカリフォスファターゼ活性を染色により確認した。更に多分化能をチェックするために浮遊培養にて胚様体を形成させた後付着培養に切り替えて神経(β3チューブリン)、筋肉(αsmooth muscle actin)、腸(Foxa2)への分化が生じることを免疫染色で確認した。更に免疫不全マウス(SCIDマウス)の精巣内へ細胞を移植して2-3ヵ月後に形成された奇形腫を組織的に確認した所色素上皮、軟骨、腸管構造等を確認することができた。iPS細胞のLaminA/C遺伝子はR482Q変異を維持していた。以上から先天性部分性脂肪萎縮症患者iPS細胞の樹立が確認できた。
2: おおむね順調に進展している
疾患によってはiPS細胞の樹立が困難である例が報告されている。しかし、ミトコンドリア病や脂肪萎縮症患者からの樹立クローンについては、未分化状態を維持しながら継代培養が可能であり、vitro(胚様体形成法)及びvivo(奇形腫形成法)において多分化能(全能性)を確認することができている。ミトコンドリア病iPS細胞においてはミトコンドリア遺伝子変異の変異比率(ヘテロプラスミー)の消失や増大が認められているが、核ゲノムの遺伝子変異である先天性脂肪萎縮症においてはiPS細胞においても患者で認められた遺伝子変異が保持されていることが確認できており、疾患特異的iPS細胞の正確な樹立ができたことが示されている。
今後は、既存の脂肪細胞分化系の最適化と脂肪萎縮症特異的iPS細胞を分化系に適用させ、疾患の発症メカニズムを詳細に解析する予定である。脂肪細胞分化系の最適化については、ヒト脂肪細胞由来線維芽細胞様細胞分化系をコントロールとして、分化マーカーの発現変化を確認していく予定である。また、初期分化においては、胚様体分化過程における中内胚葉マーカーの確認等を行っていく予定である。
疾患特異的iPS細胞樹立が順調に行えたため樹立の為の培養費が節約できた。また、樹立確認のための生化学、免疫組織化学、動物実験については他の疾患特異的iPS細胞の樹立実験と共通しており経費の節減が可能であった。
今後、疾患特異的iPS細胞クローンを多数培養して分化実験に供するために規模の大きい培養・生化学実験を行っていく予定です。
すべて 2014 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (1件) 備考 (1件)
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