研究課題
脂肪萎縮症は、遺伝子変異に伴って生じる先天性脂肪萎縮症と自己免疫や薬剤性の機序が推定される後天性脂肪萎縮症とに分けられる。後天性脂肪萎縮症については、外的要因の評価が難しく病態生理の解明を行うことは困難である。先天性脂肪萎縮症は、いくつかの遺伝子における変異が報告されており、遺伝子の機能変化・喪失が主要なメカニズムであると予想され、患者由来細胞による病態生理の解明が期待される。我々は、先天性脂肪萎縮症患者の中で、LaminA/C遺伝子変異を有する先天性部分性脂肪萎縮症患者の女性患者1名及び、BSCL2(Seipin)遺伝子変異を有する先天性全身性脂肪萎縮症患者の男性患者1名及び女性患者1名から、それぞれ複数の疾患特異的iPS細胞クローンを樹立し、未分化状態(NANOG, SSEA-4,ALP活性)・多分化能(胚様体分化法やSCIDマウスでの奇形腫における三胚葉分化)を確認し、患者の体細胞におけるLAMINA/C遺伝子変異R482Q, BSCL2遺伝子変異(E189X, R275X)が各クローンにおいて正確に保持されていることを確認した。以上から先天性部分性及び先天性全身性脂肪萎縮症患者からの疾患特異的iPS細胞の樹立を世界で初めて行うことができた。BSCL2遺伝子変異を有するiPS細胞について、分化を誘導したところ、正常対照のiPS細胞に比べて、脂質蓄積能の喪失やPPARγ遺伝子発現の低下を認めた。野生型のBSCL2遺伝子を強制発現させることにより脂質蓄積能は回復した。脂肪滴関連蛋白の発現を検討した。正常対照では、ADRP(Perilipin2)の細胞内局在が描く周辺の小胞体周辺に局在するのに対し、脂肪萎縮症細胞では細胞質全体に散在しており、少なくとも脂肪分解を阻害するADRP(Perilipin2)の局在変化が生じていることが確認できた。
2: おおむね順調に進展している
疾患によってはiPS細胞の樹立が困難である例が報告されている。しかし、ミトコンドリア病や脂肪萎縮症患者からの樹立クローンについては、未分化状態を維持しながら継代培養が可能であり、vitro(胚様体形成法)及びvivo(奇形腫形成法)において多分化能(全能性)を確認することができている。ミトコンドリア病iPS細胞においてはミトコンドリア遺伝子変異の変異比率(ヘテロプラスミー)の消失や増大が認められているが、核ゲノムの遺伝子変異である先天性脂肪萎縮症においてはiPS細胞においても患者で認められた遺伝子変異が保持されていることが確認できており、疾患特異的iPS細胞の正確な樹立ができたことが示されている。BSCL2(Seipin)遺伝子変異を有する先天性全身性脂肪萎縮症においては、欠損したSeipin蛋白を強制発現により回復させることにより脂肪蓄積能が回復することを示しBSCL2(Seipin)そのものがやはり脂肪萎縮症の根本原因であることを確認した。また今までBSCL2(Seipin)の作用機構や病態の多くは未解明であったが、脂肪分解を抑制する働きを有するADRP(Perilipin2)の局在変化などが関連している可能性を示すことができた。
今後は、既存の脂肪細胞分化系の最適化と脂肪萎縮症特異的iPS細胞を分化系に適用させ、疾患の発症メカニズムを詳細に解析する予定である。また、褐色脂肪細胞等の分化についても検討を加える予定である。
疾患特異的iPS細胞の樹立が順調に行えた為樹立の為の培養費用が節約できた。また、樹立確認の為の生化学、免疫組織化学、動物実験については、他の疾患特異的iPS細胞の樹立実験と共通しており経費の節減が可能であった。分化実験においては、既存のマウス培養細胞分化実験と共用で使用できるものがあり経費の節減が可能であった。
今後、疾患特異的iPS細胞の複数のクローンについて、複数の分化系を用いて分化実験に供する為に規模の大きい培養・生化学実験を行っていく予定である。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (1件) 備考 (1件)
Metabolism.
巻: 65 ページ: 543-546
10.1016/j.metabol.2015.12.015.
http://metab-kyoto-u.jp/