研究課題
2型糖尿病、肥満症、脂肪萎縮症は、脂肪細胞の機能異常が共通する代謝疾患である。遺伝子変異に伴って生じる先天性脂肪萎縮症については、いくつかの遺伝子変異が報告されており、自己免疫等の外的な要因が関係する後天性脂肪萎縮症に比べ、病態の本質に迫りやすいと考えられた。我々は、先天性脂肪萎縮症患者の中で、LamionA/C遺伝子に変異を有する先天性部分性脂肪萎縮症の女性患者1名及び、BSCL2(Seipin)遺伝子変異を有する先天性全身性脂肪萎縮症の男性患者1名、女性患者1名から、複数のiPS細胞クローンを樹立し、未分化状態・多分化能・遺伝子変異を確認し、脂肪萎縮症iPS細胞の樹立に世界に先駆けて成功した。BSCL2遺伝子変異を有するiPS細胞(BSCL2-iPS)については、分化・未分化状態によらず、脂肪染色や透過型電子顕微鏡解析により脂肪滴の著しい減少を確認した。脂肪滴関連蛋白の発現を検討したところ、正常対照では、ADRP(Perilipin2)の細胞内局在が小胞体に近い脂肪滴周囲に存在するのに対し、脂肪萎縮症細胞では細胞質全体に散在していた。ADRP(Perilipin2)は、脂肪分化に伴い発現が上昇してくることが知られており、また成熟脂肪細胞ではカテコラミン刺激などによる脂肪分解を阻害することが知られている。発現ベクター導入により野生型のBSCL2蛋白を復元するとADRP(Perilipin2)の局在と脂質蓄積能の回復が認められた。BSCL2(Seipin)はADRP(Perilipin2)の脂肪滴への局在を規定しており、BSCL2遺伝子変異に伴う脂肪萎縮症では、分化障害や脂肪分解の亢進が抑制できず脂肪蓄積不全を呈すると推定された。
2: おおむね順調に進展している
世界に先駆けて、脂肪萎縮症のiPS細胞樹立に成功した。また、BSCL2(Seipin)がADRPの脂肪滴への局在を規定するアンカーとして働いていることを示唆する疾患メカニズムの解明を行うことができた。
既存のES/iPS細胞からの白色・褐色脂肪細胞分化系を最適化させ、脂肪萎縮症特異的iPS細胞の更に詳細なメカニズムの解析を行う予定である。
ES/iPS細胞の培養について、培養条件の最適化により、維持費のコストが低く抑えられた。
疾患特異的iPS細胞を多数樹立してきたが、病態解析のためには、正確な分化系が必要である。現時点では、成熟した脂肪細胞や膵β細胞のES/iPS細胞からの分化系が完全に確立しているわけではないため、疾患特異的iPS細胞を十分に利用できていない現実がある。そこで、今後成熟した脂肪細胞や膵β細胞の分化系を確立し、再度疾患特異的iPS細胞の解析に再度、立ち返る予定である。
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