研究実績の概要 |
今回の研究では、全ゲノムエクソーム解析により、日本人1型糖尿病と関連する低頻度バリアントの検索を施行している。 最終的に兄弟発症の2例を含む20例の1型糖尿病症例と1例の非糖尿病家族の全ゲノムエクソーム解析を施行した。各例について、4万個程度のバリアントが検出されたが、その中でいくつかの条件でさらに選別を行った。最終的に10個のバリアントを今回は選別し、多数例での関連解析を施行した。結果として、約1200例の解析により、4個のバリアントにおいて、変異のホモが1型糖尿病群においてのみ有意に集積し、その中の1つであるトール様受容体1(TLR1)遺伝子L144P変異は1型糖尿病と有意に関連し、1型糖尿病兄弟発症の1家系において兄弟が共にこの低頻度バリアントのhomozygoteであった。最近報告された東北メディカルメガバンクのコントロールデータを用いても1型糖尿病との関連は有意であった。 TLRファミリーはウイルスや細菌由来の成分を認識し生体防御の応答を誘起する。興味深いことに、1型糖尿病モデルのNODマウスへの種々のTLRリガンドの投与-これは感染を模する-により1型糖尿病の発症が顕著に抑制される(PlosOne 5:e11484, 2010)。すなわち、いわゆる「衛生仮説」(衛生環境の向上による感染症の減少が自己免疫疾患の増加をもたらす)にTLRファミリーは密接にかかわることが動物実験から示唆されていた。我々が見出した機能低下を来す可能性が高い低頻度バリアントLeu144Proと1型糖尿病との関連は、ヒトにおける「衛生仮説」の遺伝学的な実証になる可能性がある。 現在、TLR1とヘテロダイマーを形成し細菌由来のリガンドを認識するTLR2も含めて、複数の低頻度バリアントの解析を行うと共に、医科学研究所との共同研究によりTLR1のL144P変異の機能解析を施行している。
|