研究課題/領域番号 |
26461345
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
荻原 健 順天堂大学, 医学部, 准教授 (60399772)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | Set9 / NF-kB / メチル化 / 膵β細胞 / 炎症 |
研究実績の概要 |
糖尿病発症には、インスリン分泌不全が病態の重要な部分を担っており、その背景にはインスリン産生細胞である膵β細胞の障害が関与する。糖代謝異常下は、炎症性サイトカインが誘因の一つとなり、膵β細胞の機能不全あるいは細胞死を誘導すると考えられている。メチル化酵素Set7/9は炎症を司る転写因子NF-κBと結合し、炎症を制御することが報告されており、なおかつSet7/9が膵島に豊富に発現することから、Set7/9が膵β細胞の炎症を制御するとの仮説を立て、実験を施行した。 マウス膵β腫瘍株であるβTC3細胞を用いてサイトカイン(IL-1β、TNF-α、INF-γ)で刺激したところ、NF-κBの標的遺伝子であるNos2、Tnfa、Sod2の発現が増加した。βTC3細胞でSet7/9をノックダウンした結果、サイトカイン応答性Nos2の発現が減弱したが、他のNF-κB標的遺伝子であるTnfa、Sod2のサイトカイン応答性発現には影響しなかった。Set7/9はヒストン3蛋白内リジン4 (H3K4)のメチル化を介して、クロマチンの閉鎖構造を解除する役割があることから、ChIP解析を用いて、NF-κB標的遺伝子のプロモーター領域のH3K4メチル化を評価した。Set7/9ノックダウンによりNos2プロモーター領域のH3K4メチル化が抑制されが、TnfaおよびSod2プロモーター領域のH3K4メチル化は抑制を受けなかった。また、Annexin5の検討では、サイトカイン刺激によりβTC3細胞のアポトーシスが増加し、Set7/9ノックダウンにより、そのアポトーシスの増加が抑制された。 Set7/9ノックアウトマウスおよび野生型マウスから膵島を採取し、解析した結果、ノックアウトマウスにおいてサイトカイン応答性Nos2の発現が低下していたが、サイトカイン応答性TnfaおよびSod2の発現は野生型と同等であった。 以上より、Set7/9が膵島においてNos2発現調整を通じて、炎症に関与することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度までに施行した膵β細胞腫瘍株および単離膵島を用いた解析により、メチル化酵素Set7/9が膵β細胞における炎症に関与する可能性が示唆された。そのメカニズムの一端は、NO産生酵素であるiNOSをコードするNos2遺伝子のクロマチン構造を介するものであった。今後、膵β細胞特異的ノックアウトマウスの耐糖能を評価する予定であるが、マウスの糖代謝は多臓器からの影響を配慮し、解析する必要がある。推定されるメカニズムがあることは、解析を進める上での有用な指針の一つとなる。
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今後の研究の推進方策 |
タモキシフェン誘導性にSet7/9を膵β細胞特異的にノックアウトするマウスでは、野生型と比較して耐糖能が増悪することが報告された。Set7/9はPdx1との相互作用を介して、膵β細胞維持にも関与することから、Set7/9作用を亜急性に抑制することで、膵β細胞機能が障害されたと推察される。本研究では、糖尿病発症の好発年齢が中高年であることを考慮し、比較的高週齢の膵β細胞特異的Set7/9ノックアウトマウスを対象に、耐糖能を評価あるいはストレプトゾトシン誘導性糖尿病モデルの解析を進める予定である。
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