糖尿病の発症はインスリン分泌不全が一因であり、インスリンを分泌する膵β細胞の細胞量低下および機能不全には、炎症に由来する細胞障害が関与すると考えられている。既報では、非β細胞においてメチル化酵素Set7/9が炎症を司る重要な転写因子であるNF-κBへの介入により炎症を制御すると報告された。Set7/9は膵島に豊富に発現することから、我々はSet7/9がβ細胞の炎症に関与するとの仮説を立て、検証した。β細胞腫瘍株であるβTC3細胞においてSet7/9をノックダウンした結果、炎症性サイトカイン応答性のNos2遺伝子発現が低下し、Nos2によりコードされるiNOSの発現も低下した。iNOSが産生する一酸化窒素は活性酸素の産生を介してアポトーシスを誘導する。Set7/9ノックダウンにより、βTC3細胞における炎症性サイトカイン依存性の細胞死が、抑制された。免疫沈降法の解析から、Set7/9は既報と同様にβ細胞腫瘍株においてもNF-κBのサブユニットであるp65と複合体を形成した。β細胞腫瘍株の核分画と細胞質分画を抽出し解析した結果、Set7/9は炎症性サイトカイン応答性に核外から核内へ移動した。更なる解析によりSet7/9がNos2遺伝子のp65結合領域付近に誘導され、また、Nos2発現上昇には同領域付近のヒストン蛋白(ヒストン3リジン4)のメチル化亢進が関与することが示唆された。Set7/9ノックアウトマウスから膵島を単離し、炎症性サイトカインで刺激した結果、野生型マウスから単離した膵島と比較し、Nos2の発現が抑制された。以上より、Set7/9がNF-κBと複合体を形成し、炎症性サイトカイン刺激に伴い核内に移動し、Nos2遺伝子に誘導され、ヒストン蛋白のメチル化、すなわちeuchromatin化を介して、Nos2発現を促進するとことが示唆された。本研究にて、我々はメチル化酵素Set7/9による膵島炎症の新たな調節機構を見出したことから、β細胞の機能維持確立の新たな糸口になることが期待される。
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