今年度の主な検討として、ヒトに発生するインスリノーマでは、Glucose-induced insulin secretion(以下GSIS)に観るような生体の恒常性維持のための調節機能は失われて栄養素に非依存的に調節が失われて不適切な過剰分泌を起こす。このことに着目して、我々の担当した一例について、慈恵医大倫理委員会の承認のもと、手術材料のインスリノーマからゲノムDNA、total RNAおよびタンパク質成分を抽出した。これと対比させながら、同一人(インスリノーマ患者)のgermlineのゲノムを反映していると考えられる末梢血の有核細胞からのゲノムと比較した。血球(germline)のゲノムの解析:16億5千万リード、2480億塩基、インスリノーマのゲノムの解析:19億2千万リード、2879億塩基を行ったところ、国際標準 UCSC hg19と比較した変異としては、血球とインスリノーマ合計で130万箇所、シークエンスの精度の高いリードに限ると54万箇所(以下PASSとする)があった。またPASSのうち、血球で変異が無く、インスリノーマで変異があるもの 67遺伝子で、またPASSのうち、インスリノーマで変異が無く、血球で変異があるもの 92遺伝子 であった。さらにこのPASSのうち、エクソン部分の変異 90787箇所、このうちPathogenic 41箇所、Likely Pathogenic 7箇所であることが判明した(但し、これらは血球とインスリノーマの双方でUCSC hg19と異なっていた)。このexon部分の48箇所のvariationについて、GSISなど生体の恒常性維持希望と関連する遺伝子ついて、今後はその機能変異の同定を行うことで、膵島の自己組織化と生体恒常性維持のメカニズムが明らかにできる道が開かれた。
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