研究課題/領域番号 |
26461347
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研究機関 | 金沢医科大学 |
研究代表者 |
西澤 誠 金沢医科大学, 医学部, 准教授 (70278117)
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研究分担者 |
古家 大祐 金沢医科大学, 医学部, 教授 (70242980)
中川 淳 金沢医科大学, 医学部, 准教授 (70262574)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | GLP-1 / インクレチン効果 / 迷走神経シグナル / インスリン分泌 / β細胞増殖 |
研究実績の概要 |
本研究は、研究代表者が報告した門脈内グルコースおよびGLP-1の惹起する迷走神経シグナルを介したインスリン分泌促進作用が、膵β細胞およびα細胞の機能や細胞量に与える影響と糖尿病状態における同作用の作動状況を明らかにし、2型糖尿病の治療戦略への応用に結び付けるものである。 既報の実験で我々は、Wistarラットを用いグルコースおよびGLP-1を門脈あるいは頸静脈内へ短時間注入し結果を得たが、本研究では数日から2週間程度持続的に注入する必要があるため、これまでの手技にいくつか変更が必要となった。ラットの門脈あるいは頚静脈内に挿入するカテーテルはこれまでと同じシリコンカテーテルを用いたが、頸動脈に留置する採血用カテーテルは閉塞を防ぐためポリウレタンへ変更した。また、それらを維持する装置は、市販のハーネス、スプリングテザーおよびシーベルを組み合わせた。これらの工夫により、2週間程度の持続注入およびサンプリングを可能な実験系を確立した。 現在、この実験系を用い、正常あるいは迷走神経肝枝切断を行ったWistarラットで門脈あるいは頚静脈内へグルコースを持続的に注入し、選択的門脈内高血糖状況がもたらす効果を検証している。持続注入中、ラットは自由に摂餌できるので消化管から門脈内へのインクレチン分泌は断続的に行われるので、門脈内へのGLP-1注入は行っていない。この条件下、門脈内グルコースの惹起する迷走神経シグナルがインスリン、グルカゴン分泌動態および膵βあるいはα細胞量に与える影響を調べている。この実験結果は、本研究の基礎データとなるものであり、今後予定している様々な条件での結果の比較対象となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
我々は、本研究で用いる主要な実験手技である手術(カテーテル挿入および迷走神経肝枝切断)、カテーテルの維持と管理および術後回復後に実施する無麻酔無拘束下での注入およびサンプリングをこれまでの研究で行っていた。しかし、本研究では持続注入を行うため、ハーネス、スプリングテザー、シーベルを組み合わせた装置を採用したが、実際に行うと数日で閉塞や断裂などのカテーテルトラブルが容易に発生することが判明した。 特に頸動脈に留置した採血用カテーテルについて、逆流と閉塞が頻発したため、挿入するカテーテルについては特殊加工したものを含む多くの製品を試してみた。結局、微量の生理食塩水の持続注入を行うことで安価なポリウレタンカテーテルを用いることで問題を解決できた。また、ラットによるカテーテルの破損に対してはハーネスの固定法、シーベルの種類など多くの点に改良を加えた。 これらの改良に多くの時間を費やすこととなったため、研究の進行度はやや遅れているが、回収率の高いシステムを構築することができたことにより、今後遅れを取り戻すことができると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
現在、門脈あるいは頚静脈内へグルコース持続注入を行い、門脈内グルコースおよびインクレチン(GLP-1)が惹起する迷走神経シグナルがインスリン分泌、グルカゴン分泌および膵βおよびα細胞量に与える影響を明らかにすることを目的に実験を行っている。現時点で得られた結果およびこれまでの我々の研究結果から、迷走神経シグナルはグルコースおよびGLP-1の門脈内濃度が単に高いレベルにあるよりも低濃度から高濃度への変動時に最も明瞭な効果を発揮する可能性が示唆されている。 当初の予定では、GLP-1による迷走神経シグナルは摂餌時の内因性GLP-1分泌に依存する設定としたが、それを明らかにするため、グルコースおよびGLP-1の両者を間欠的に注入し、膵βおよびα細胞機能と細胞量に与える効果を定量持続注入群と比較することも必要と考えている。この結果は、実験で最も神経シグナルを強く発揮する投与条件を明らかにすることとなり、以下の糖尿病ラットにおける実験の条件設定にも重要となる。 次いで、門脈内グルコースおよびGLP-1による迷走神経シグナル惹起の効果が、糖尿病状態で保たれているかを明らかにするため、糖尿病ラットを用いて同様の実験を行う。また、ここまでの結果を考察し、糖尿病ラットの膵βおよびα細胞機能および細胞量の改善を期待できる条件を明らかにしたい。 これらの結果から、門脈内のグルコースおよびGLP-1の惹起する迷走神経シグナルが膵島機能および細胞量に与える効果が明らかとなり、そのシグナルを最大に発揮する条件を求めることで2型糖尿病治療の新たな戦略を確立する。
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