研究課題
本研究では、2型糖尿病発症メカニズムを考察するために、近交系化された自然発症モデルのKKマウスを用いた。このマウスを糖尿病発症リスクとなる環境下に飼育するとより早期に血糖値が上昇し始めたが、耐糖能異常の進行には個体差も認められた。膵島を単離し、cis調節エレメント(プロモーターおよびエンハンサー)に着目したヒストン修飾H3K27acのChIP-Seq解析、およびRNA-Seq解析によって、エピゲノム変化と遺伝子発現変化につき、通常飼育環境下の対照サンプルとの網羅的な比較を行った。糖尿病の進行前に採取したサンプルのChIP-Seqにおいては、シグナルに差のある領域が多数(16,989箇所の増加領域と5,541か所の減少領域)見出されたが、特に環境因子負荷によって転写不活性化の方向性を示したエピゲノム変化には、トランスクリプトーム変化との間に有意な関連性が認められた。エピゲノムと発現のいずれにおいても低下を示した遺伝子には、β細胞の機能上重要とされるものが多く認められ、病態の進行に関与する所見である可能性がある。このような"活性低下型"cis調節エレメント領域には複数種類の重要転写因子モチーフのエンリッチメントが観察され、網羅的なトランスクリプトーム変化の原因的意義を示すものと考えられた。ラット膵β細胞株INS-1を用い、結合が想定される転写因子の機能喪失実験によって転写因子モチーフの機能的意義の検証を試みたところ、標的遺伝子の発現変化とともにインスリン分泌能の変化を起こすものも認められた。膵β細胞において、機能的に重要な転写因子はプロモーター・エンハンサーなどの結合領域にてヒストン修飾変化を介して標的遺伝子転写を活性化するが、本モデルにおいては、環境因子による糖尿病発症機構にこのようなエピゲノム・遺伝子転写発現調節機構の破綻(不全)が寄与している可能性が示唆された。
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Carcinogenesis.
巻: 38 ページ: 261-270
10.1093/carcin/bgx005
http://www.rincgm.jp/department/dia/02/