研究課題
我々は、心血管疾患の重大なリスク要因となる、高脂肪食に伴うメタボリックシンドロームの病態改善を目指して、代謝疾患における免疫細胞賦活化機構を解明することを目的とし、研究を行っている。現在まで、生体分子イメージング手法を応用し、食事由来脂質の全身性の影響、肥満に伴う脂肪組織の機能的変化、特に脂肪組織免疫細胞の異常と局所免疫の賦活化を明らかにしてきた。たとえば、肥満した脂肪組織や腸管では、M1マクロファージ、CD8陽性T細胞といった炎症性細胞が賦活化されて、脂肪組織炎症と糖尿病病態を起こしている。さらに、脂肪組織に内在する制御性B細胞の役割を明らかにしている。また、オートタキシンは脂肪細胞分化に関わり、脂肪組織炎症をコントロールし、全身のインスリン抵抗性を決定していることを明らかにした(2014年 Diabetes)。本研究では、代謝疾患をはじめとする、生命現象を蛍光二光子顕微鏡を用い高速・高解像度で手に取るように可視化する「生体二光子分子イメージングシステム」を独自に開発している。現在、達成している生体内部で秒30コマの時間解像度、回折限界の空間解像度、4色フルカラーは世界にも類をみないものであり、圧倒的に得られる情報量が多い。生体観察は生体をリアルタイムで三次元的に把握できる情報量の多さがアドバンテージとしてあげられ、代謝性疾患も非常によいイメージングの適応になる。この手法を、各種病態モデル・遺伝子改変動物、および血栓モデル動物に適応して、生理学的病態部位の局所における細胞動態・ネットワークの可視化を行い、生体システムへの理解につなげた。昨年度は新たな造血過程を生体骨髄イメージングにより明らかにしており、第二著者としてJ cell Biology誌へ論文がアクセプトされている。
2: おおむね順調に進展している
初年度は、生体イメージング手法を応用させ、生活習慣病において慢性炎症を引き起こす臓器の可視化、病態把握を行った。本計画では、生体を光でみるバイオイメージング技術を確立し、生活習慣病病態、特に血栓性イベント発症や、肥満による脂肪組織における慢性炎症にアプローチしている。システムは申請者らが独自に開発しており、手法論的に独自性が高いだけでなく、肥満と炎症、血栓止血と炎症・組織再生のリンクを明らかにするほか、造血など新たなフィールドで、新たなパラダイムを呈示しつつある。新たな形態学のありかたを明確に呈示しており、今後の進捗展開が期待される。平成26年度は、イメージング手法を用い、オートキシンが、脂肪組織炎症関与し、全身のインスリン抵抗性を決定していることを明らかにした(2014年 Diabetes)。また、J Cell Biology誌へ論文がアクセプトされており、達成度はおおむね順調に進展していると考えられる。
平成27年度は、開発してきた生体イメージング手法を用い、臓器破綻のメカニズムを明らかにしていくことを目標としている。特に生活習慣病に重要な炎症初期病態を規定する免疫・炎症性細胞の挙動に注目し、炎症機転で最初に活性化すると思われる、CD8陽性T細胞、炎症性マクロファージの初期の活性化機構を明らかにする。また、肥満の原因である糖脂質過剰摂取行動の背景にある、甘み・旨み味覚刺激に対する依存形成過程についても、感覚器イメージングにより明らかにする。実験動物モデルとして、慢性の糖液・人工甘味料刺激・高脂肪食負荷を行い、慢性の味覚刺激に対して代謝組織の機能異常とともに、末梢感覚器の閾値上昇(不応性)が生じていないか、大脳の応答パターンが変化していないか、を明らかにする。最終的に、代謝疾患の新規治療のターゲットを見いだすことを目標とする。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (5件)
Journal of cell biology
巻: 未 ページ: 未
10.1083/jcb.201410052
Diabetes
巻: 63(12) ページ: 4154-64
10.2337/db13-1694. Epub 2014 Jun 26.