研究課題/領域番号 |
26461356
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
長崎 実佳 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (70456135)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 生体イメージング / 脂肪組織 / 炎症 |
研究実績の概要 |
我々は、心血管疾患の重大なリスク要因となる、高脂肪食に伴うメタボリックシンドロームの病態解明を目指して、代謝疾患における免疫細胞賦活化機構を解明することを目的とし、研究を行っている。 我々は、脂肪組織を炎症にかたむける初期の因子として、修飾脂質であるリゾリン脂質の一つ、リゾホスファチジン酸(LPA)の生合成酵素であるオートタキシン(ATX、ENPP2)を同定した。脂肪組織炎症に加えてインスリン抵抗性にも寄与しており、多面的な作用があると考えられた。さらに、ENPP2はバイオマーカーとしての有用性も持っており、代謝性疾患に対する診療にも有用と考えられた(当該研究初年度2014年 Diabetesに筆頭著者としてアクセプトされた)。 また、本年度は、メタボリック症候群の危険因子に関連するヒト血清中のガングリオシドGM3分子種の同定を行い、GM3 (d18:1-h24:1)が、メタボリック症候群スクリーニングの最良候補となることを、本年度、PLoS One誌に共著者として発表した。さらに、脂肪組織から分泌されるアディポネクチンが、低値であれば脂肪肝発症の、高値であれば将来の骨折発症の予測因子となりうることを、検診受診者のデータベースより明らかにし、初年度および本年度に循環器学会にて発表を行った。 本研究では、代謝疾患をはじめとする、生命現象を蛍光二光子顕微鏡を用い高速・高解像度で手に取るように可視化する「生体二光子分子イメージングシステム」を独自に開発している。この、生体観察は生体をリアルタイムで三次元的に把握できる情報量の多さがアドバンテージとしてあげられ、代謝性疾患も非常によいイメージングの適応になる。新たな造血過程を生体骨髄イメージングにより明らかにしており、本年度、第二著者としてJ Cell Biology誌に論文が掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当該研究の初年度には、脂肪細胞から主に分泌されるオートタキシン(ATX、ENPP2)が、脂肪細胞分化に関わり、脂肪組織炎症をコントロールし、全身のインスリン抵抗性を決定していることを明らかにした(2014年 Diabetes)。 本年度は、メタボリック症候群の危険因子に関連するヒト血清中のガングリオシドGM3分子種の同定を行い、GM3 (d18:1-h24:1)が、メタボリック症候群スクリーニングの最良候補となることを、PLoS One誌に共著者として発表した。 さらに、脂肪組織から分泌されるアディポネクチンが、低値であれば脂肪肝発症の、高値であれば将来の骨折発症の予測因子となりうることを、検診受診者のデータベースより明らかにし、初年度および本年度に循環器学会にて発表を行った。 また、本研究では、代謝疾患をはじめとする、生命現象を蛍光二光子顕微鏡を用い高速・高解像度で手に取るように可視化する「生体二光子分子イメージングシステム」を独自に開発している。新たな造血過程を生体骨髄イメージングにより明らかにしており、本年度、第二著者としてJ Cell Biology誌に論文が掲載された。
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今後の研究の推進方策 |
我々は検診受診者に対し、一般の検診項目に加え、網羅的に、リゾリン脂質の一つ、リゾホスファチジン酸(LPA)の生合成酵素であるオートタキシン(ATX、ENPP2)血清抗原量、総・高分子量アディポネクチンを測定し、メタボリックシンドロームやインスリン抵抗性の発症へのリン脂質・脂質生合成系の異常の関与を検討している。 現在、検診における縦断的検討では、ENPP2とBody Mass Index、腹囲、高分子量アディポネクチンに強い相関を認めている。ENPP2は肥満者・メタボリックシンドローム患者で有意に低下しており、オートタキシンは動脈硬化を発症する前段階の、慢性炎症を基盤とするメタボリックシンドロームの良いマーカーとなり得ると考えられた。 また、血清リン脂質のうちのスフィンゴ糖脂質の一種、ガングリオシドGM3 (d18:1-h24:1)が、メタボリック症候群スクリーニングの最良候補となることを、報告した。 リン脂質とその生合成酵素は新規のメタボリックシンドロームに対する有用なバイオマーカーとなるだけでなく、新しい抗肥満・抗糖尿病治療の標的ともなり得ると考えられた。今後は、リン脂質の生体での役割を、マウスだけでなくヒトにおいても検討していく。また、ENPP2の阻害などリン脂質を介したシグナル制御により、特異的な代謝性疾患の治療法を探っていく。同時に、リン脂質の免疫賦活化機能の解明も行っていく。
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