研究課題/領域番号 |
26461358
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
笹子 敬洋 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (20550429)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | インスリン抵抗性 / 小胞体ストレス / 脂肪性肝炎 / 肝生検 |
研究実績の概要 |
まずSdf2l1のホモログの発現パターンを解析したところ、培養細胞系で薬剤により小胞体ストレスを誘導しても、Pomt1, Pomt2, Sdf2の発現は誘導されなかった。同様に野生型マウスにツニカマイシンを投与して肝臓で小胞体ストレスを惹起したが、発現誘導は見られなかった。更に野生型マウスで絶食状態と再摂食状態で比較をしたが、同様に発現誘導は認めなかった。 そこでそもそも注目していたSdf2l1自体の機能を明らかにするため、Sdf2l1-floxedマウスの胎児から線維芽細胞を抽出し、creリコンビナーゼを発現するアデノウイルスを感染させることで、Sdf2l1欠損線維芽細胞を樹立した。この細胞にAkitaマウスの変異型インスリンを発現させ、MG-132でユビキチン化蛋白の分解を抑制すると、ユビキチン化した変異型インスリンが蓄積していることが確認された。このことからSdf2l1は、小胞体内に蓄積した異常蛋白の分解を促進する機能があることが明らかとなった。 一方でAlb-creマウスを用いた肝臓特異的Sdf2l1欠損マウスを作製し、52週齢まで飼育して耐糖能を評価したが、若週齢と同様に明らかな表現型を認めなかった。また高脂肪食を負荷したマウスでも同様であった。 しかしながらヒトの肝生検検体を用いた解析では、男女合わせて25例を対象に予備的検討を行なったところ、SDF2L1の発現はNASHの病期、すなわち線維化と負に相関していた。その他BiPやsXBP1といった小胞体ストレスマーカーも、蛋白合成マーカーと正に相関した一方、線維化マーカーは負に相関し、マウスでの知見がヒトでも再現される可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画に沿って研究を推進できたと考える。Sdf2l1の他のホモログについては、薬剤性の小胞体ストレスや摂食負荷によって同様の発現変化を示さなかったことから、Sdf2l1が特異的に小胞体ストレスに応答して誘導されるものと考えられ、その機能解析に注力することとした。 この分子が小胞体ストレスを軽減する機序として、異常蛋白をユビキチン化してプロテアソーム系での分解を促進する可能性が示唆された。 一方で、Sdf2l1欠損マウスに関しても、Alb-creマウスを用いたモデルを作製し、加齢や高脂肪食負荷における表現型の解析までは進めることができた。しかし明らかな耐糖能異常などは認められず、何らかの代償機構が働いているものと考えられた。 またヒトの肝生検検体においては、マウスでの知見と同様な変化が認められることが分かってきており、予備的検討の段階としては十分な成果と考えた。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画に沿って研究を継続する。Sdf2l1の機能として、異常蛋白のプロテアソームによる分解に寄与している可能性までは示すことができた。しかし当初の予想としては、この分子はマンノース転位酵素と考えられており、その転移酵素活性が小胞体ストレス応答に必要かどうかは明らかでない。この点を平成27年度以降に明らかにしたい。 またモデルマウスでの表現型については、成獣のSdf2l1-floxedマウスにcreリコンビナーゼを発現するアデノウイルスを投与する系の方が表現型を見やすい可能性があり、当初の予定通りであるが、次年度以降にこちらを進める方針である。 またヒトにおける解析に関しては、予備的検討の結果を受けて、症例数を増やした上で、対象をより絞った上で(例えばマウスと同様に男性に絞る、など)、更なる解析を進めたい。
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