研究課題/領域番号 |
26461358
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
笹子 敬洋 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (20550429)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | インスリン抵抗性 / 小胞体ストレス / 脂肪性肝炎 / 肝生検 |
研究実績の概要 |
成獣のSdf2l1-floxedマウスにAd-cre(creリコンビナーゼを発現するアデノウイルス)を投与し、肝臓特異的Sdf2l1欠損マウスを作製したところ、摂食時の小胞体ストレスの亢進、インスリン抵抗性・耐糖能異常、中性脂肪含量増加を認めた。これらの表現型は、Sdf2l1のノックダウンでのものと一致しており、肝臓におけるSdf2l1が糖脂質代謝の制御に関与していることが、複数のモデルで示された。 一方ヒト検体における検討としては、マウスと同様に男性に絞る方針とし、64例と症例数を増やして解析した。このうち糖尿病の合併は25例で認めた。まずSDF2L1自体の発現は空腹時血糖値やHbA1cと負の相関を示し、実際に糖尿病症例では有意に低下していた。 次にインスリン抵抗性との関連を解析したところ、糖尿病あり・抵抗性ありの症例では上流の転写因子であるsXBP1の発現が上昇した一方、下流のSDF2L1との発現比SDF2L1/sXBP1は有意に低下していた。また脂肪性肝炎の組織像との関連を解析したところ、糖尿病症例ではsXBP1と病期の進行は正に相関したが、SDF2L1/sXBP1比とは負に相関した。非糖尿病症例ではこのような変化は認めなかった。 糖尿病におけるインスリン抵抗性や進展した脂肪性肝炎では、sXBP1が上昇していることから小胞体ストレスは過剰になっているものと考えられた。一方でその転写活性はインスリンによって制御されていることが知られている。糖尿病状態でインスリン作用が不十分となっている症例においてはsXBP1が十分に働かず、小胞体ストレスに対して保護的に作用すべきSDF2L1の誘導が不十分となり、それが更に過剰な小胞体ストレスをもたらしているものと解釈された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画に沿って推進できたと考える。Sdf2l1のノックダウンの表現型が、ノックアウトモデルにおいても再現され、肝臓におけるSdf2l1が糖脂質代謝の制御に関与していることがより確かとなった。 一方でヒトにおける解析では、SDF2L1の発現が実際に糖代謝と関連していることを示すことができた。加えて上流の転写因子sXBP1との発現比に着目し、この比の低下が小胞体ストレス応答不全を反映するとの意味づけが可能となった。マウスにおいては、野生型の対照マウスと、糖尿病・インスリン抵抗性・肥満・脂肪肝を合併したモデルマウスの、両極端の比較しかすることができない。しかしヒトにおいては病態がより多様であり、特に糖尿病合併の有無を区別することで、小胞体ストレス応答と病態進展の間に新たな相関を見出すことができたものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画に沿って研究を継続する。Sdf2l1の機能として、異常蛋白のプロテオソームによる分解に寄与している可能性までは示している。しかし酵母におけるホモログはマンノース転位酵素と考えられており、その転移酵素活性が小胞体ストレス応答に必要かどうかは明らかでない。この点を平成28年度に解明したい。 またヒトにおける解析は、一旦男性に絞って行なうことで一定の結果を得ることができたが、同様の変化が女性においても見られるかを、平成28年度に解析する。女性の場合には閉経の関与も大きい可能性があり、より慎重に研究を進めたい。
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