研究課題
ANGPTLはマウスにおける膵β細胞増殖作用の報告から糖代謝への影響が注目されたが,元々はリポ蛋白リパーゼ(LPL)の活性を阻害する別名Lipasin(Lipase inhibitor)であり,同じファミリーのANGPTL3/4とともに脂質代謝の重要分子である.膵β細胞増殖作用自体は2016年に否定されたが,脂質・糖質代謝研究をつなぐ分子として依然重要である.LPLはTG水解し脂肪酸を細胞に提供する鍵であり,LPL完全欠損マウスは栄養利用障害で致死,欠損ヘテロマウスは糖代謝障害をきたす.我々は機能低下型変異R59Wの脂質・糖代謝,冠動脈硬化症への影響について,ヘパリン負荷LPL活性との関連を検討した.その結果LPL活性正常群ではR59WはLPL活性亢進を介するHDL-C上昇,血糖およびHbA1c低値に関連,冠動脈造影において冠動脈硬化症進展がより軽症であった.一方LPL活性低下群においてはこの様な好ましい効果は得られず,逆にHDL-C低下,血糖およびHbA1c高値,さらにブドウ糖負荷試験におけるインスリン分泌能の低下に関連が見られた.この成果は米国心臓病会議(シカゴ)において報告した.さらに我々はブドウ糖負荷試験後平均11年経過観察したコホートで開始時非DM症例の検討で,R54W変異保持者で観察開始時のLPL活性値が低い群ではHbA1cの上昇が有意に高かった.これは観察開始時の肥満度や空腹時血糖,HbA1c値とは独立した予測因子であった.また糖代謝と脂質代謝の関連では家族性高コレステロール血症(FH)が注目されるが,このコホートにおいてFHの糖尿病新規発症は,非FHにくらべて有意に少ない結果であった.血中のANGPTL8濃度はFHの方が低く,その解釈にはさらなる検討が必要と思われる.この成果は米国心臓病会議(オーランド)において報告した.これらの成果は論文化の予定である.
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