研究課題
OLETF (Otsuka Long-Evans Tokushima Fatty)ラットの内臓脂肪組織で発現が上昇し、CTX遺伝子ファミリーに属する膜蛋白であるACAM/CLMP (adipocyte adhesion molecule/ coxackie- and adenovirus receptor-like membrane protein:以下ACAM)を同定した。aP2 promoterによるACAM transgenic (Tg)マウスは高脂肪高蔗糖食群でwild type (WT)マウスに比べ白色脂肪の重量とサイズの減少を認め体重増加が有意に抑制されたため、ACAMは生体内における白色脂肪細胞の肥大化抑制に強く関与していると推測される。加えてわれわれは、ACAMが上皮系細胞の一次繊毛に発現していることを見出しており、ACAMが一次繊毛機能を介して白色脂肪細胞の分化増殖や肥大化のメカニズムに関与していると考え、この分子機構の解明を研究目的とする。3T3-L1脂肪細胞においてACAM mRNAの発現は分化誘導後6-12時間で最も増強し48時間以内に一旦低下、その後再び12-14日目に発現が上昇する2峰性のパターンを示す。特に分化誘導初期の6-12時間でのACAM mRNAの発現ピークは、ヒト白色脂肪細胞の分化増殖過程で認める一次繊毛の一過性発現(PNAS 10:1820-5, 2009)の時相と一致していることから、ACAMの脂肪細胞分化への関与は一次繊毛の発現や形態変化と関連していると推察され、3T3-L1脂肪細胞とACAM Tgマウスに加え、すでに確立しているACAM knockout (KO)マウスを用いて、蛍光染色法や免疫電顕法、免疫沈降法などの手法により、肥満症やメタボリックシンドロームにおけるACAMの役割を検討する。
1: 当初の計画以上に進展している
われわれは、これまでに上皮系細胞(BEAS-2B, mProx24)の一次繊毛におけるACAMの発現を確認しており、3T3-L1脂肪細胞とC57BL6マウス精巣周囲脂肪組織の一次繊毛におけるACAMの発現を共焦点顕微鏡と走査型電子顕微鏡を用いて詳細に検討したが、脂肪細胞の一次繊毛におけるACAMの発現は確認できなかった。しかしながら、別途並行して行った3T3-L1脂肪細胞におけるACAMの細胞内相互作用分子を同定する実験(InterPlay Mammalian TAP system, Stratagene)により細胞骨格分子であるγ-actinを同定した。この知見に加え、ACAMは上皮系細胞ではTight junctionにおける接着分子として機能しているとの既報から、ACAMは脂肪細胞においても細胞接着やアクチンとの相互作用により細胞骨格の変化をもたらすことで脂肪細胞の肥大化を抑制していると推察し引き続き検討を行った。すなわち、WTマウスとACAM Tgマウスの白色脂肪組織を用いてPhalloidin(重合アクチン)とACAMの2重染色を行ったところ、PhalloidinはACAM Tgマウスでより強く染色され、ACAMとのマージが観察された。加えて、ACAM抗体とγ-actin抗体を用いた免疫電子顕微鏡による検討により、ACAMとMyosinII-A, γ-actinは共にACAM Tg マウスの白色脂肪細胞間隙に強く発現しadherens junctionを形成していることが見いだされた。これらの結果から、白色脂肪組織においてもACAMは接着分子として機能するとともに、ACAMの細胞内相互作用分子であるアクチンが表層アクチンを形成することにより脂肪細胞の肥大化が抑制されていることが判明した。
脂肪組織におけるACAMの役割を解明する目的で確立したACAM KOマウスは、胎生期にはWTマウスとの表現型の違いは観察されなかったが、生後の成長は著しく不良であり、生後約10週令で全マウスが死亡する結果を得た。このACAM KOマウスの成長不良ならびに短命の原因を探索する目的で腎臓、肺、消化管を検討した結果、腎臓の著明な嚢胞状腫大に加え、小腸内腔の拡張と消化管長の延長、気管支の嚢胞状拡張などの臓器発生異常を認めた。今後は、ACAM KOマウスにおける上皮系組織発生異常の原因を探索する目的で、上皮系細胞(BEAS-2B, mProx24, Caco2, HK2, MDCK)や、ACAM KOマウスの各臓器を用いて、蛍光抗体染色、電子顕微鏡による観察に加え、siRNAを用いたACAMのノックダウン実験により機能解析を行う予定である。
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Diabetes.
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Scientific Reports
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