研究課題
Apop遺伝子は当初、アポトーシス(細胞の能動的な死:自殺)を誘導する遺伝子としてApoEノックアウトマウス動脈硬化由来の平滑筋細胞からクローニングされた。細胞のエネルギー代謝の中核的な役割を担っているミトコンドリアに局在するタンパク質である。本研究においてApopが本来有している生理的な機能はミトコンドリアのエネルギー代謝の調節にあることが明らかになりつつある。本研究ではApop遺伝子を欠損したノックアウトマウスを作製して研究を行った。Apopノックアウトマウスでは重要な表現系のひとつとして運動耐容能の低下が見られた。そこで運動にとって重要な組織である骨格筋について調べたところ、Apopノックアウトマウスの骨格筋ではミトコンドリア機能を反映する重要な酵素が低下していることが確認された。この結果はミトコンドリア内膜に存在するIからVの複合体から形成され、細胞のエネルギー産生に重要な枠割を果たしている電子伝達系の活性を測定することによっても確認された。またミトコンドリアの活性調節と発熱には従来細胞外基質の恒常性に関わっているとされていたタンパク質のTimp-3が関係していた。Timp-3遺伝子を欠損したマウスでは寒冷暴露時の体温の低下抑制がみられた。さらにミトコンドリア心筋炎を含む心不全において心筋障害は心筋線維化と相関することや、高血圧治療薬のひとつであるテルミサルタンがAMPK経路を通して血管内皮細胞のミトコンドリア代謝を活性化することが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
Apop遺伝子を特異的に欠損したノックアウトマウスの解析が予定通りに進行している。Apopはミトコンドリアに局在するタンパク質であることからミトコンドリアについての研究を進め、ミトコンドリア機能についてすでに一定の結果を得ることに成功しているが、さらに詳細な解析が進行中である。ミトコンドリアの代表的な役割はエネルギー産生であり、その中核的役割を果たしているが電子伝達系である。そこで電子伝達系の機能測定を行い、一定の成果に到達した。ノックアウトマウスの組織学的解析についても予定通りに進行している。ミトコンドリアの構造観察には電子顕微鏡が必要であるため、電子顕微鏡による解析が開始しされて光学顕微鏡では得られないミトコンドリアの構造解析が予定通りに進行している。必要数のマウスを人工授精で調整して開始されたノックアウトマウスの寿命測定についても予定通りに進行しており、野生型マウスとの差異が期待される状況である。
Apopノックアウトマウスを用いたApopタンパク質機能解析を次年度も継続して実施する予定である。Apopが本来有している機能がミトコンドリアのエネルギー産生調節であることについて、さらに詳細な解析を実行する。Apopが影響していることが明らかになった電子伝達系の活性化または不活性化は生体の代謝に多くの影響を及ぼしている。そこでApopノックアウトマウスについても代謝性疾患との関連について解析を行う。またApop遺伝子の制御機構についての検討を開始する。
次年度に使用する予定の研究費があるが、これは本年度実施する予定であったApopノックアウトマウスのミトコンドリア活性の測定が本年度の研究成果を踏まえて解析手法を見直しし、より詳細に解析する必要性が生じたためである。そこで本年度の解析手法を再考し、より詳細な解析を次年度において行うことになった。
次年度においては本年度の測定結果を踏まえ、より詳細にApopノックアウトマウス骨格筋のミトコンドリア活性の測定を行う。そのために次年度に使用する予定の研究費に本年度に研究費を合わせて新しい手法での測定を行い、より正確な結果を得るために使用する予定である。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (2件)
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