Apop遺伝子はマウス動脈硬化プラークから採取した平滑筋細胞で、高レベルに発現している遺伝子として発見された。培養細胞を用いた発現実験の結果から、アポトーシス(細胞の自殺)誘導能を持つことを明らかにし、Apoptogenic Protein (Apop)と名前を付けた。一方、Apop遺伝子を欠損するノックアウトマウス(ApopKOマウス)では内臓脂肪が著明に減少し、体重増加も抑えられている。またApopKOマウスでは、血中のLDLコレステロール(悪玉コレステロール)と中性脂肪の減少が認められた。これらの結果から、Apop遺伝子の機能はアポトーシス誘導に留まらず、脂肪酸代謝の調節にもあると考えられる。ApopKOマウスの行動を解析した結果、運動量の減少が認められた。したがって、ApopKOマウスには運動による体重減少よりもむしろ、代謝調節による体重変化があるものと考えられる。このことはApopがエネルギー代謝の中枢機関であるミトコンドリアに存在していることに矛盾しない結果である。Apop遺伝子の発現調節によってミトコンドリアが活性化され、体重が減少し、コレステロールと中性脂肪が低下したものと思われる。体重や中性脂肪の改善はメタボリックシンドロームの発症防止に直結している。メタボリックシンドロームは高齢者多く発症し、寝たきりの原因である脳卒中や心筋梗塞の誘因にとなり、超高齢社会にある日本にとっては特に解決すべき課題である。Apop遺伝子発現抑制によって、効果的に防止できることが期待される。
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