研究課題
近年、機能的な褐色(ベージュ)脂肪がヒト成人脂肪組織に存在することが明らかになった。本研究は、申請者が世界に先駆けて作成した平滑筋細胞分化モジュレータ受容体LR11(J Clin Invest 2008)のノックアウトマウスの脂肪細胞に異所性褐色脂肪分化が誘導されることから、このモデルを用いて、白色脂肪から褐色脂肪への機能転換を制御する分子機序を解明することを目的とする。昨年度、一部の代謝生理学的解析、細胞生物学的のための細胞調整を終了した。以下、要約する。ノックアウトマウスに高脂肪食負荷を行うと、野生型マウスでは体重増加と脂肪肝、高血糖、高インスリン血症を認めるのに対し、ノックアウトマウスでは体重はほとんど増加せず肝脂肪蓄積を認めない。糖負荷試験で、ノックアウトマウスは野生型マウスに比べ糖負荷30分、60分の血糖値とインスリン値が有意に野生型マウスより低下していた。インスリン投与試験では、インスリン投与15分、30分のノックアウトマウス血糖値は有意に低下していた。脂肪組織のリアルタイムPCRによる遺伝子発現解析の結果、皮下脂肪の褐色特異的な遺伝子PGC1α、Cidea、UCP-1、Elovl3、BMP8bmRNA発現が亢進していた。このような状態を示すノックアウトマウス皮下脂肪組織と褐色脂肪組織からそれぞれの初代培養前駆脂肪細胞を樹立し、分化誘導をかけて遺伝子発現について検討した。ノックアウトマウス由来細胞はPGC1α、Cidea、UCP-1発現が亢進し、この作用はLR11可溶性蛋白を添加することで低下した。このような培養脂肪細胞解析結果から、本マウスの表現型は脂肪細胞の遺伝子異常とそれにもとづく代謝異常に起因することが推測された。
2: おおむね順調に進展している
モデルマウスの表現型を負荷試験で証明できた。病態生理学解析から予想された病態変化とその起因となる遺伝子変化を検出することができた。これらの結果、計画とおり遺伝子解析へと移行することができた。また、初代培養細胞の調整方法を樹立し、次年度それを用いた解析を行うことが可能となった。
初年度、計画とおりに、マウス病態生理学解析と生物学的解析を進めることができたことから、次年度はこれらを基盤に包括的な遺伝子発現解析とそれによる細胞病態の原因解明に着手する。1.LR11ノックアウトマウスの病態生理学解析LR11ノックアウトマウスと野生型マウスの褐色脂肪組織、皮下脂肪組織と腸間膜脂肪組織からRNA抽出し網羅的にマイクロアレイ解析を行い遺伝子発現プロファイルからそれぞれのLR11とその標的遺伝子を解析する。脂肪組織の熱産生能、酸素消費量、細胞内小器官に関する組織学的検討、LR11ノックアウトマウスの皮下脂肪における異所性褐色脂肪と個体の生理学的指標、代謝病態的解析結果を比較検討する。2.培養細胞を用いた細胞生物学的解析初年度に樹立したマウス皮下脂肪組織と褐色脂肪組織由来の初代培養前駆脂肪細胞を用い、白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞(ノルエピネフリン、cAMP刺激など)へそれぞれの分化誘導刺激を行い野生型マウス由来の前駆脂肪細胞とLR11ノックアウトマウスの前駆脂肪細胞の分化誘導、形態的な差異、BMP8b、BMP7、PRDM16、PGC1α、Cidea,UCP1、Resistin, Angiotensinogen等の遺伝子発現について検討する。プロモーターアッセイによりリコンビナントLR11による褐色脂肪の分化誘導遺伝子の活性化機序を検討する。リコンビナント可溶性受容体LR11による前駆脂肪細胞、白色脂肪細胞における遺伝子誘導を明らかにする。そこから抽出した誘導される遺伝子から脂肪細胞分化に関わる細胞表面蛋白についてウエスタンブロットや免疫沈降解析を行い、LR11との関わりを検討する。それに対する中和抗体やLR11作用シグナルインヒビターの効果を解析する。
すべて 2014
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件)
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