研究課題
褐色脂肪は白色脂肪と異なりエネルギー消費を担うため、それを発生誘導し機能発現することで糖尿病や代謝疾患の治療に結びつくと期待される。申請者は世界に先駆けて作成した新規分化モジュレータ可溶性受容体LR11のノックアウトマウスの脂肪細胞に異所性褐色脂肪分化が著しく誘導されることを発見し、海外共同研究によりその一部の分子機構を解明した。本研究は、このモデルを用いて、白色脂肪から褐色脂肪への機能転換を制御する分子機序の全容を解明し新規の修飾法を探索することを目的としている。LR11ノックアウトマウスと野生型マウスの安静時エネルギー消費量を測定したところ、ノックアウトマウスではエネルギー消費量が増大していた。この変化は、ノックアウトマウスと野生型マウス脂肪細胞から培養した細胞レベルでも同様に認められ、マウス個体のエネルギー消費量の増大は、主にマウス脂肪細胞の変化に基づくことが明らかになった。培養細胞のmRNA発現解析を行った結果、マウス脂肪組織同様に、ノックアウトマウスでは褐色遺伝子の発現が亢進し、この発現誘導はBMP/smad経路の活性化を伴っていた。可溶性リコンビナントLR11を添加することで、この活性化は抑制された。さらに免疫沈降実験から、可溶性LR11はBMP受容体と複合体形成することが明らかになり、可溶性LR11が本経路の受容体と結合することでシグナル伝達を抑制すると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
LR11ノックアウトマウスの病態生理学解析と培養細胞にみとめられる遺伝子発現変化の原因となるシグナル伝達異常を同定することができた。
計画とおりに、マウス病態生理学解析と生物学的解析に着手したことから、さらなる原因解明とともに、この褐色脂肪トランスディファレンシエーションのインヒビターであるLR11遺伝子誘導の環境による制御機構の解明に着手する予定である。1.環境変化に伴うLR11発現制御に関わる病態生理学解析 野生型マウスの寒冷刺激、食餌負荷における脂肪組織などのLR11mRNA発現制御と血中可溶性LR11濃度を解析し、昨年度明らかにした褐色脂肪へのブラウニングインヒビターとしての生理学的意義を明らかにする。2. 培養細胞を用いた細胞生物学的解析 リコンビナント可溶性受容体LR11による前駆脂肪細胞、白色脂肪細胞における分化誘導の抑制効果と、それに対する中和抗体の効果を解析する。これらの、病態生理学、細胞生物学的アプローチにより得られた成果を合わせて、本研究目的である世界で初めて同定された脂肪細胞トランスディファレンシエーションモデルでみられた、白色脂肪から褐色脂肪への機能転換を制御する分子機序を総合的に解明し、その成果から新規の修飾法を提示する。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)
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