褐色脂肪細胞は脂肪細胞の特徴を有するとともに、熱産生によりエネルギー消費を担うため、それを誘導することで糖尿病や代謝疾患の治療に結びつくことが期待される。研究代表者は可溶性受容体LR11のノックアウトマウスの脂肪に異所性褐色脂肪分化が著しく誘導されることを発見した。本研究は、このモデルを用いて、白色脂肪から褐色脂肪への機能転換を制御する分子機序を解明し新規の修飾法を探索することを目的とした。 はじめに、培養細胞を用いた細胞生物学的解析を行ない、ノルエピネフリン刺激により亢進した酸素消費量がリコンビナントLR11を添加することにより抑制された。また、亢進したグリセロールの放出もLR11リコンビナントを添加することにより抑制された。これらの結果から褐色細胞の機能獲得にLR11がインヒビターとして働いていることが明らかになった。 そこで、LR11作用に関わる細胞内シグナル解析を行なった。マウス初代培養脂肪細胞において、褐色脂肪細胞の機能獲得に重要な因子であるBMP7刺激によりSmad1/5/8のリン酸化が誘導されるのに対し、リコンビナントLR11存在下ではBMP7によるリン酸化が抑制された。免疫沈降実験により、可溶性LR11はBMP受容体と複合体を形成することが示された。これらの結果から、可溶性LR11の褐色脂肪分化への抑制作用には、BMP受容体と結合することでBMP7により刺激されるシグナル伝達を抑制することが一因であると考えられた。したがって、LR11はBMP7シグナル経路を抑制することにより褐色脂肪形成及びエネルギー産生を負に調節する可能性がある。 以上より、LR11は脂肪細胞の褐色脂肪機能を獲得する過程を調節するインヒビターであり、LR11やその作用経路を標的とした抑制治療は褐色脂肪を賦活化することで、肥満や糖尿病の治療に結びつく可能性が示された。
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