研究課題
終末糖化産物(AGE)受容体(RAGE)は、種々の炎症性リガンドの受容体として、炎症機転に深く関与する。昨年度、ヒト血管内皮細胞において炎症性サイトカインのTNF-αは、JNK- , p38-MAP kinaseと小胞体ストレスにかかわるATF-4を介してADAM10活性化、RAGE sheddingを誘導することを示した。本年度我々は、ヒトRAGEを血管内皮特異的に強制発現させた(endo-hRAGE-Tg)マウスを用いて、RAGE sheddingが実際 in vivoで誘導されるか、炎症惹起との関係、さらにそのTNF-α依存性、小胞体ストレスの関与について検討した。endo-RAGE WT/WTまたはTg/TgマウスにLPS投与2時間後には血中TNF-αが著明に増加した。また、Tg/TgマウスではWT/WTマウスに比べてLPS投与後の血中TNFα値が有意に高く、血管内皮特異的RAGE過剰発現マウスは炎症反応の増幅現象が認められた。Tg/Tgマウスにおいては、LPS投与後10~24時間後にかけてsRAGEが2-4倍に増加し、生体内でRAGE sheddingが誘導されることが確認できた。WT/Tgマウスにおいても、sRAGEの上昇はTg/Tgマウスの半分程度で観察された。TNFαの特異的な阻害薬であるEtanerceptの前投与によりLPS投与後のsRAGEは部分的にしか抑制されず、RAGE sheddingはTNF-αのみに依存した現象ではなかった。また、小胞体ストレスの阻害作用を有するtauroursodeoxycholic acidの前投与によっても、LPS投与後の血中sRAGE上昇は抑制出来なかった。これらの結果より、血管内皮特異的なRAGE過剰発現はLPSによる炎症反応を増大し、またLPSによる非特異的な炎症刺激によりRAGE sheddingが誘導されることが明らかになった。LPSによるRAGE sheddingは必ずしもTNF-α及び小胞体ストレスに依存した現象でないことも明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
RAGE sheddingの細胞・分子機序を基にして、本年度は血管内皮特異的ヒトRAGE過剰発現マウスを用いることにより、血管内皮表面のRAGEが炎症惹起により直接sheddingが誘導されることが示された。LPSを用いた非特異的炎症によるRAGE sheddingは、必ずしもTNF-α、小胞体ストレスに依存的とは考えられなかったが、実際に血管内皮のRAGE過剰発現がTNF-α産生系に影響するという、予期せぬ成果も得られ、最終年度の研究計画への重要な知見が得られたと考えている。また、計画通り、endo-RAGE TgマウスをBl-6系の遺伝背景にBack-crossも8代まで進んでおり、肥満病態モデルへの応用も可能な状況になりつつある。
平成28年度は、内皮特異的RAGEトランスジェニックマウス(endo-RAGE Tg)を用いたin vivoの研究を完成させ、in vitroのRAGE shedding機序解析結果と併せて論文にまとめる。具体的には、1. endo-RAGE Tgマウスに対するTNF-α直接投与によるRAGE sheddingの誘導、その系における小胞体ストレスの阻害作用を有するtauroursodeoxycholic acid (TUDCA), 4-phenylbutyrate (4-PBA)投与の血中sRAGE増加の抑制作用を検討、2. TG/TGホモマウスにおいては、LPS負荷前から血中sRAGEが測定可能であることから、TNF-α阻害薬のEtanercept投与による血中sRAGEを測定し、定常状態におけるRAGE sheddingにTNF-αの血管内皮局所における内因性制御系がかかわる可能性を検討する。現在までの研究成果は、平成28年度の日本動脈硬化学会(東京)において公表予定である
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