研究課題
膵β細胞の発生・分化・増殖機構を解明するモデルとして膵内分泌腫瘍があげられる。遺伝性膵内分泌腫瘍の代表的疾患として多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1型)があるが、原因遺伝子MEN1や翻訳産物meninの機能は不明のままである。一方、転写因子JunDはmeninと直接結合し、meninの機能上の共役因子であることが知られている。1)私達はCre-loxPシステムを用いてmeninと結合能力のない変異JunDを下垂体及び膵β細胞特異的に過剰発現させたマウスの樹立に成功しており、このマウスは10月齢で膵β細胞に過形成を生じることを確認した。 また、10月齢の同雄マウスを安楽死させコラゲネース法にて膵島細胞のみを単離し、total RNAを抽出し、クオリティ検査を施行後、cDNAマイクロアレイ解析を施行した。対照群である野生型マウスと比較して、271遺伝子が2倍以上の発現増加を認め、246遺伝子が0.5倍以下に発現が低下していた。更に得られた結果を用いて、パスウェイ解析、Go-fisher解析を施行したところ、DNA複製因子群、転写因子群、細胞周期調節因子群の変動が大きかった。2)マウス膵β細胞過形成株(βHC-9)、マウス膵β細胞腺腫株(βTC6)に、野生型menin, 変異menin (JunDと結合不能) にflag tagを標識したプラスミドを一過性に遺伝子導入し、一定期間培養後に、核蛋白成分を抽出し、それぞれを抗flag抗体にて免疫沈降させた。得られた沈降物を電気泳動後、これまでmeninとの共役結合が報告されている種々の蛋白質への抗体を用いてウェスタンブロット解析を行ったところ、HMT巨大複合体の構成要素である、Ash2, RbBP5とmeninの共役結合を確認した。
2: おおむね順調に進展している
平成26年度の研究として、1)膵β細胞特異的変異JunD過剰発現マウスの膵島細胞を用いたcDNAマイクロアレイ解析、2)膵β細胞株を用いたmeninおよびJunDに結合する蛋白質群の単離と同定、を計画していたが、1)については、当初の計画通りに資料の単離・精製からcDNAマイクロアレイ解析まで施行し、変異JunDによって制御される、腫瘍発症・増殖関連因子群として複数の遺伝子群を同定し得た。2)については、現在までのところ膵β細胞特異的な、meninの新たな共役蛋白質の同定までは至っていないが、これまでHeLa細胞のみで、meninとの共役結合が確認されていたHMT巨大複合体の構成成分のうち、少なくとも複数の因子が膵β細胞内でmeninと共役することを示し得た。
1)MEN1型のモデルマウスである、Men1ヘテロ接合体マウスから単離した膵島細胞を用いてのcDNAマイクロアレイ解析は既に実施済みであり、これらの結果と、膵β細胞特異的変異JunD過剰発現マウスを用いてのcDNAマイクロアレイ解析の結果を比較検討し、遺伝子発現が同様に変動する遺伝子を、膵β細胞腫瘍化の最初期段階において重要な役割を担う候補遺伝子群として同定する。それら遺伝子群の発現レベルを、個々のマウスから単離したβ細胞において、qPCR法およびウェスタンブロット法にて発現差異を確認する。2)膵β細胞株に、野生型menin, 変異meninを遺伝子導入した細胞株より核蛋白を抽出し、各種抗体にて免疫沈降させ、得られた沈降物を銀染色し、野生型または変異型のmeninと結合する共役蛋白質複合体を同定する。
平成26年度の研究計画の一つとして当初、膵β細胞株を用いたmeninおよびJunDに結合する蛋白質群の単離と同定、を計画していた。この計画には、MALDI-TOF-MS法にて蛋白質群の質量分析を行うことを想定していたが、平成26年度中の施行には至らなかったため、次年度使用額が生じた。
MALDI-TOF-MS法を用いた質量分析を通しての標的蛋白質群の同定を行う予定であり、その費用として使用予定である。
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