研究課題/領域番号 |
26461378
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研究機関 | 浜松医科大学 |
研究代表者 |
松下 明生 浜松医科大学, 医学部附属病院, 助教 (50402269)
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研究分担者 |
佐々木 茂和 浜松医科大学, 医学部附属病院, 講師 (20303547)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 甲状腺ホルモン / 受容体 / 転写制御 / 転写伸長反応 |
研究実績の概要 |
甲状腺ホルモン(T3)受容体(TR)の作用メカニズムに関わる転写因子の検索を行い、RNA polymerase II (RNAPII)のmRNA合成反応を進行させる転写伸長因子P-TEFbの構成要素であるcyclin dependent kinase (CDK9)がTRと結合することを発見した。さらにCDK9のキナーゼ活性阻害剤である5,6-dichloro-1β-D-ribofuranosyl benzimidazole(DRB)、flavopiridol(FP)の添加やCDK9のsiRNAを用いたノックダウンによりT3/TR標的遺伝子の転写活性化が障害されたことから、甲状腺ホルモンによる遺伝子転写調節にP-TEFbとの相互作用を介した転写活性化機構が存在することが考えられた。 また、P-TEFbはHEXIM1(hexamethylene bis-acetamide inducible 1)と複合体を形成して不活性化されているが、HEXIM1の発現誘導物質Hexamethylene bis acetamide (HMBA)を添加してT3/TRの発現調節への影響を検討したところ、標的遺伝子の発現はHMBA濃度依存性に阻害された。 さらに、Co-IPとGST-pull down法を用いた検討により、TRはCDK9と直接結合していることが示された。 TRはT3存在下でRNAPIIを標的遺伝子上へ呼び込んで転写を開始するだけでなく、CDK9との相互作用を介してRNAPIIのC-terminal repeat domain (CTD)の Ser2を速やかにリン酸化し、転写伸長反応を進めることでmRNA合成を活性化していることが予想された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
TRとCDK9の相互作用に関して、両者の蛋白-蛋白結合をCo-IPとGST-pull down法で証明することができた。CDK9の働きを抑制することでT3/TRの転写活性化が減弱することも確認され、機能的にも両者が関連しあっていることが示された。遺伝子プロモーター上にTRとCDK9が共在していること、CDK9によるRNAPIIのCTDリン酸化状態が変化することを証明するため、クロマチン免疫沈降法(ChIP assay)を用いて検討を継続している。
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今後の研究の推進方策 |
TRとCDK9との結合部位の検討では、TRのリガンド結合領域のC末端が両者の結合に重要であることが判明した。この領域は甲状腺ホルモン不応症(RTH)患者で過去に報告されている変異部位と一致している。RTHの発症メカニズムとしてTR変異体とCDK9との結合が減弱し、転写活性化能を喪失している可能性があり、既報のTR変異体の解析を行いたいと考えている。 また、TR遺伝子変異を認めない甲状腺ホルモン不応症(non-TR RTH)の症例の中に、TRとの結合が減弱したCDK9変異の症例が含まれている可能性がある。今回の研究でCDK9のN末端領域がTRとの結合することが判明している。この領域にはCDKで保存性の高いPITARLEドメインが含まれている。他の転写因子との結合を損なうことなくTR特異的に結合が障害されるような変異が存在するのか、さらに詳細な結合様式の検討を行う予定である。 TRはT3により遺伝子の転写を活性化するだけでなく、T3存在下で標的遺伝子の転写を抑制する働きもある。T3/TRにより負に制御される代表的遺伝子として下垂体TSHα鎖、β鎖遺伝子や視床下部のprepro-TRH遺伝子があり、視床下部‐下垂体-甲状腺系のネガティブフィードバック機構の標的である。このような負の転写制御の分子メカニズムは不明な点が多く、T3/TRとCDK9の相互作用が負の転写制御において転写伸長反応にどのような影響を与えるのか検討する予定である。負の転写制御機構の新たな分子メカニズムの発見につながる可能性があると考えている。
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