研究実績の概要 |
甲状腺ホルモン(T3, T4)は生体の正常な発達、分化、代謝などの生命活動に必須な重要なホルモンである。T3は核内受容体である甲状腺ホルモン受容体(TR)に結合し標的遺伝子の転写活性を調節することでホルモン作用を発揮しているが、その調節メカニズムの詳細に関しては不明な点が残されている。 私達はTRの転写調節に関わる転写因子の検索を行い、RNA polymerase II (RNAPII)のmRNA合成反応を進行させる転写伸長因子P-TEFbの構成要素であるcyclin dependent kinase (CDK9)がTRと相互作用することを発見した。 CDK9のキナーゼ活性阻害剤である5,6-dichloro-1β-D-ribofuranosyl benzimidazole (DRB)、flavopiridol(FP)の添加やCDK9のsiRNAを用いたノックダウンによりT3/TR標的遺伝子の転写活性化が障害されたことから、甲状腺ホルモンによる遺伝子転写調節にP-TEFbとの相互作用を介した転写活性化機構が存在することが考えられた。また、P-TEFbはHEXIM1(hexamethylene bis-acetamide inducible 1)と複合体を形成して不活性化されているが、HEXIM1の発現誘導物質Hexamethylene bis acetamide (HMBA)を添加してT3/TRの発現調節への影響を検討したところ、標的遺伝子の発現はHMBA濃度依存性に阻害された。さらに、Co-IPとGST-pull down法を用いた検討により、TRはCCDK9と直接結合していることが示された。 TRはT3存在下でRNAPIIを標的遺伝子上へ呼び込んで転写を開始するだけでなく、CDK9との相互作用を介してRNAPIIのC-terminal repeat domain (CTD)の Ser2を速やかにリン酸化し、転写伸長反応を進めることでmRNA合成を活性化していることが予想された。
|