研究課題
昨年度までの研究で、ヒトiPS細胞由来Osr-1陽性中間中胚葉細胞において副腎皮質ステロイド産生細胞分化に寄与する化合物のハイスループットスクリーニングを行い、有望なHit化合物を1つ得ている。本年度は、そのHit化合物のOsr-1陽性細胞に対する作用について検討した。その化合物の添加により、免疫染色にてOsr-1陽性細胞におけるHSD3B陽性細胞率は有意に上昇し、定量的PCR解析にて遺伝子発現レベルも有意に上昇した。しかし、CYP11A1、CYP17、CYP21A2、CYP11B1などその他のステロイド合成酵素の発現には有意な差を認めなかった。また、その化合物は情報伝達物質の受容体(受容体A)のアゴニストとして知られていたため、受容体Aに対する特異的アゴニストの添加実験を行ったが、HSD3B発現上昇は認められなかった。また、同定化合物添加時に受容体Aのブロッカーの投与を行ったが、受容体Aのブロックにより同化合物のHSD3B上昇作用は抑制されなかった。そこで、同化合物は別の経路を介して作用しているのではないかと考え、同化合物がaffinityを持つ別の受容体(受容体B)についても検討した。Osr-1陽性細胞に受容体Bに対する別のアゴニストを添加したところ、同定化合物と同様に、HSD3B上昇作用を認めた。さらに、同定化合物添加時に受容体Bのブロッカーを投与したところ、HSD3B上昇作用は抑制・消失した。これらの結果から、同定化合物は受容体Bを介してOsr-1陽性細胞のHSD3B発現を上昇されることが判明した。
2: おおむね順調に進展している
昨年度までにハイスループットスクリーニングで同定した化合物について、その作用機序の解析を行った。その作用機序については当初の予想とは異なっていたものの、一定の解明が進み、おおむね順調に作用メカニズムの解析が進んでいる。
同定化合物が受容体Bを介してOsr-1陽性中間中胚葉細胞のHSD3B発現を上昇させることは判明したが、その他のステロイド合成酵素の上昇は認めず、同定化合物単体では中間中胚葉細胞を副腎皮質ステロイド産生細胞に分化させる力は持たないと考えられた。HSD3Bは胎児においては妊娠後期に副腎での発現が大きく上昇することが知られており、同定化合物もその段階での副腎分化・成熟に関与している可能性が考えられた。そこで、Osr-1陽性細胞にSF-1を遺伝子導入し副腎皮質方向に誘導した細胞における同定化合物の効果を解析していく。
同定化合物が予想と異なる作用機序を示したため、その解釈と作用機序の解明に時間がかかったため、実験計画のいくつかが次年度に持ち越しになった。
同定化合物が作用する受容体について明らかになったので、本年度はその細胞生物学的な意義について検討していく。
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Metabolism.
巻: 65(4) ページ: 543-56.
10.1016/j.metabol.2015.12.015.