研究課題
エネルギー代謝におけるミトコンドリア(Mt)ダイナミクスを介するオルガネラネットワークの役割を明らかにする目的にて、肝細胞特異的Drp1欠損マウス (Drp1LiKO)を作成し研究を行った。前年度までに、Drp1LiKOマウスに高脂肪食負荷をかけるとUnfolded protein response (UPR) が誘導され、PERK-eIF2a-Atf4経路の活性化がみられることを明らかにしている。今年度は、さらにDrp1のMt外膜上の結合分子であるMffの肝細胞特異的欠損マウス (MffLiKO)を作成し、以下の3項目に関して研究を進めた。①肝臓におけるMtダイナミクス破綻による小胞体(ER)ストレス惹起機構の解明1) Drp1LiKOマウス初代培養肝細胞を用いて小胞体ストレスを検討した。2) MffLiKOマウスの表現型を解析した。Mff欠損マウスはDrp1欠損マウス同様に胎生致死となることから、肝細胞特異的Mff欠損マウスを作成し研究を遂行した。②Mtダイナミクスを介する肝臓と筋肉・脂肪組織間連絡の機序解明:Drp1LiKOマウス肝臓ではPERK-eIF2a-Atf4経路の活性化によりFGF21の発現亢進が見られ、末梢組織のインスリン感受性亢進、脂肪燃焼の増加がみられることを明らかにしている。肝臓の迷走神経切除実験をおこなったが、FGF21の発現亢進に変化はみられず、Drp1LiKOマウスでみられる代謝改善効果は主にFGF21による作用であることを明らかとなった。③肝Mtダイナミクスを介する臓器間連関を利用したメタボリックシンドロームの治療法確立に向けた基礎的検討:野生型マウスにdnDrp1をハイドロダイナミクス法ならびに肝細胞特異的ナノキャリアーMENDを用いて導入し、耐糖能ならびに肝臓の組織学的評価を行った。
2: おおむね順調に進展している
今年度の到達目標をほぼ達成できている。① 1) Drp1LiKOマウス初代培養肝細胞を用いて小胞体ストレスを検討した。Drp1LiKO肝細胞、野生型肝細胞にそれぞれ、小胞体ストレスを惹起するThapsigargin (2-5μM)、および飽和脂肪酸であるパルミチン酸(200-800μM)を添加したところ、Chop, P8の用量依存的な発現亢進を認め、Drp1LiKO肝細胞において有意に顕著であった。ThapsigaraginではeIF2aのリン酸化亢進がみられたが、パルミチン酸ではリン酸化が見られず、UPRに違いがあることが分かった。ThapsigarginはSERCA (sarcoplasmic/endoplasmic reticulum Ca2+ ATPase) 阻害剤であり、Drp1を介するMtの分裂がMt-ER間のCa2+恒常性に不可欠であることが示唆された。2) MffLiKOマウスに高脂肪食負荷をかけると、野生型マウスと比較し著明な脂肪肝、炎症(マクロファージ浸潤)、線維化がみられることを明らかにした。さらに高脂肪食下での体重増加が野生型より少ないことが明らかとなった。② MtダイナミクスDrp1LiKOマウスでインスリン感受性亢進、高脂肪食負荷による肥満に抵抗性を示すメカニズムは主に肝臓でのFGF21産生の増加によることを明らかにした。③ 野生型マウスにdnDrp1をハイドロダイナミクス法ならびに肝細胞特異的ナノキャリアーMENDを用いて導入した。dnDrp1導入群では導入3日後の肝臓においてDrp1の発現が30-40%に低下していた。さらに糖負荷試験を行ったところ、統計学的有意差はみられなかったが、耐糖能の改善傾向を認めた。組織学的にはF4/80の染色性、血中AST/ALT値に野生型と比べ有意差は見られなかったが、Chop, P8の発現増加をみとめた。肝臓のDrp1はメタボリックシンドロームの治療標的となる可能性が極めて高いことが示唆された。
計画に従い研究を推進して行く。すなわち①ミトコンドリアダイナミクスの破綻によるERストレス惹起機構解明に向け、Drp1LiKOマウス初代肝細胞を用いた解析、肝細胞特異的Mff欠損マウスの表現型解析を行い、Drp1-Mffが関与するERストレス, UPR惹起機構を明らかにする。個体レベルでのMffLiKOマウスの解析を進め、Drp1LiKOマウスとの比較検討を行う。②肝ミトコンドリアダイナミクスを介する臓器間連関を利用したメタボリックシンドロームの治療法開発に向け、Drp1を標的として、siRNA, dn-cDNAのマウス肝臓への導入の最適化を検討する。また脂肪肝モデルマウスに対して同様な実験を行い、効果を検証する。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件、 謝辞記載あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件)
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