研究課題/領域番号 |
26461395
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
鈴木 未来子 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (80508309)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 鎌状赤血球症 / Nrf2 / Keap1 |
研究実績の概要 |
鎌状赤血球症は、アフリカや中東、インドに多くみられる遺伝病である。グロビン遺伝子の変異によって、赤血球内でヘモグロビンがポリマー状に連結し、赤血球が鎌状に変形する。鎌状に変形した赤血球は、毛細血管をスムーズに通過することができず、血管を閉塞させたり、再び開通させたりを繰り返す。血管が閉塞することによって虚血になった状態から、再び血流が開通すると、組織は突然大量の酸素にさらされるため、酸化ストレスが惹起される(虚血再灌流障害)。さらに鎌状赤血球は血管内で溶血しやすく、溶血した赤血球からヘムが流出する。ヘムもまた酸化ストレスを惹起し、周囲の組織を障害する。 転写因子Nrf2は毒物や酸化ストレスに細胞がさらされた際に速やかに誘導され、解毒や還元にはたらく酵素群の発現を活性化する。現在、Nrf2の活性化剤が多くの企業で開発中であり、そのなかのひとつであるジメチルフマル酸は多発性硬化症の治療薬としてすでに欧米で認可されている。本研究では、Nrf2を活性化することによって鎌状赤血球症の症状が改善するかを、モデルマウスを用いて検証することを目的としている。 27年度までに、遺伝的に全身でNrf2が活性化された鎌状赤血球症モデルマウスを作製し、解析を行った。その結果、Nrf2の活性化によって、炎症と組織障害が軽減することがわかった。一方で、鎌状赤血球症の原因である血管内溶血の改善はみられなかった。このことから、Nrf2の活性化が鎌状赤血球の溶血によって引き起こされる炎症および組織障害の改善にはたらくことが明らかになった。さらにNrf2活性化剤の投与によっても、遺伝的にNrf2を活性化した場合と同様の効果がみられたことから、Nrf2活性化剤が鎌状赤血球症の新規治療薬となる可能性が示唆された。ここまでの結果を論文にまとめ、PNAS誌に発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
27年度までに、遺伝的に全身でNrf2を活性化させた鎌状赤血球症モデルマウスを用いた実験およびNrf2活性化剤の投与の実験から、Nrf2の活性化により、鎌状赤血球症の炎症および組織障害が改善することが明らかになった。ここまでの成果を論文にまとめ、PNAS誌に発表できたことから、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
28年度は、Nrf2の活性化によって鎌状赤血球症の症状を改善する責任細胞の同定を目指した解析を行う。鎌状赤血球症は、血管内溶血が主な原因となっておこる疾患であるため、そのストレスに最初に曝される血管内皮細胞によるNrf2の活性化が症状改善に貢献する可能性を検討する。27年度までに、鎌状赤血球症モデルマウスと条件付きKeap1欠失マウスおよび血管内皮細胞特異的に組換え酵素Creを発現するマウス(Tie1-Creマウス)を交配させることによって、血管内皮細胞特異的にNrf2が活性化している鎌状赤血球症モデルマウスを得ている。このマウスの組織障害および炎症を解析したところ、単純な鎌状赤血球症モデルマウスよりも改善しており、血管内皮細胞におけるNrf2の活性化が鎌状赤血球症の症状改善に重要であることが示唆された。28年度は、さらにNrf2活性化による症状改善の分子メカニズムを明らかにすることを目指した解析を行う。血管内皮細胞において、鎌状赤血球症の症状を改善させるのに重要なNrf2の標的遺伝子を明らかにするため、マウスから採取した血管内皮細胞を用いた網羅的遺伝子解析を行う。 さらに、全身でNrf2を活性化した鎌状赤血球症マウスでは炎症の改善が観察されている。過去の報告から、炎症細胞におけるNrf2の活性化は、炎症性サイトカインの発現を抑制することによって、炎症を抑制することが知られている。そのため、炎症細胞特異的にNrf2を活性化させた鎌状赤血球症モデルマウスを作製し、炎症細胞におけるNrf2活性化の貢献を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
論文リバイス時の実験が効率よく進んだため、実験試薬に関わる費用が当初の計画よりも低く抑えられた。
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次年度使用額の使用計画 |
28年度も論文を発表する予定であるため、投稿料として使用する。
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